トーマス・ファーレル

トーマス・ファーレル：マンハッタン計画を支えた軍人

トーマス・フランシス・ファーレル(1891年11月3日-1967年4月11日)は、アメリカ陸軍の軍人で、その名を歴史に刻むこととなったマンハッタン計画の中枢人物です。少将にまで昇進した彼の経歴は、激動の時代を生き抜いた軍人の生き様を如実に示しています。

初期の経歴と第一次世界大戦

ニューヨーク州トロイで生まれたファーレルは、レンセラー工科大学を卒業後、パナマ運河でエンジニアとして従事しました。第一次世界大戦の勃発を受け、アメリカ欧州派遣軍の第一工兵大隊に所属し、フランスへの派遣を経験。戦地での功績により殊勲十字章を受章するなど、早くからその能力を認められました。戦後は除隊し、一時、ニューヨーク州の公務員として働いていました。

マンハッタン計画への参加

1941年、ファーレルは当時大佐だったレズリー・グローヴスの部下となり、ビルマ公路建設などにも携わっていました。しかし、彼の運命はマンハッタン計画によって大きく変わります。1945年1月、グローヴスからロスアラモス国立研究所への異動と副官への指名を打診されたのです。

この時、ファーレルはマンハッタン計画において、現場の指揮を執る重要な役割を担うことになりました。極秘裏に進められる計画の遂行において、彼の持つ工学知識と軍事的経験は、不可欠な要素であったと言えるでしょう。

原爆投下とその後

1945年8月、ファーレルは、トルーマン大統領からの指令書を携え、テニアン島へと向かいました。この時彼が運んだのは、ポール・ティベッツ機長への、原子爆弾「ファットマン」投下の命令でした。指令書には、「ヒロヒトへ 親愛を込めて」という、異様なメッセージが記されていたと伝えられています。

広島と長崎への原子爆弾投下後、ファーレルは原爆の影響調査のため、科学者のチームを率いて被爆地へと赴きました。この調査は、原爆の被害の実態解明に大きく貢献する一方、その後の彼の発言を巡り議論を呼ぶことになります。

物議を醸した声明

1945年9月6日、東京の帝国ホテルで、連合国の海外特派員向けに、ファーレルは衝撃的な声明を発表しました。「広島・長崎では、死ぬべき者は死んでしまい、9月上旬現在において、原爆放射能のために苦しんでいる者（原爆症患者）は皆無だ」という内容でした。この声明は、被爆者の苦しみを軽視したものであり、現在でも多くの批判を浴びています。

この声明は、当時の情報不足や、被爆の影響の長期的な理解が不十分であったこと、また、戦争終結後の政治的状況なども背景にあったと考えられます。しかし、その内容の無神経さや、被爆者への配慮の欠如は、彼の評価を大きく損なうこととなりました。

戦後と晩年

戦後、ファーレルは少将に昇進しましたが、1946年4月に現役を退きました。彼の軍人としての経歴は、マンハッタン計画における貢献、そしてその後の物議を醸した発言を含め、複雑で多面的な評価を余儀なくされます。彼の生涯は、歴史の転換期を生き抜き、その中心にいた一人の軍人のドラマとして、現在も人々の関心を集め続けています。彼の行動や発言は、今もなお、倫理的な問いを私たちに投げかけています。

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