ドネペジル

ドネペジルについて

ドネペジル（donepezil）は、アルツハイマー型認知症（AD）やレビー小体型認知症の進行を抑制するために用いられる、コリンエステラーゼ阻害薬の一種です。この薬は、エーザイの杉本八郎氏らによって開発されました。日本では「アリセプト」という商品名でエーザイから販売されており、海外市場ではファイザーとの提携により、同様の商品名（Aricept）で販売されています。

適用・効能

ドネペジルは、主に軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の症状進行を抑制するために使用されます。認知機能の一時的な改善が期待できますが、ADの根本的な治療薬ではなく、病気の進行を完全に止めることはできません。投与は少量から始め、患者の状態を見ながら慎重に増量されます。投与開始から12週間後には、臨床認知機能評価尺度での改善がみられることがあります。ただし、長期的な投与における有効性については、現時点では十分なデータがありません。これは、投薬対象が高齢者であるため、長期的な追跡調査が難しいことが理由の一つです。

また、2014年には、レビー小体型認知症の治療薬としても世界で初めて承認されました。さらに、機能性胃腸症に対しても効果がある可能性が示唆されています。2018年のシステマティックレビューでは、軽度、中等度、重度のAD患者に対し、12～24週間のドネペジル治療が認知機能や日常活動にわずかながらも有益であることが示されました。

作用機序

アルツハイマー型認知症では、脳内のコリン作動性神経系に障害がみられます。ドネペジルは、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害します。これにより、脳内のアセチルコリン量が増加し、コリン作動性神経系が活性化され、認知機能の改善につながると考えられています。

禁忌・副作用

ドネペジルは、ピペリジン誘導体に過敏症のある人は使用できません。また、心筋梗塞、消化性潰瘍、肝障害、錐体外路症状が現れた場合は、医師に相談し、服用を中止する必要があります。ドネペジルの開始用量である1日3mgは、有効量ではなく、副作用を抑えるための慣らし運転のようなものです。過量投与の場合、アセチルコリンが過剰になり問題が起こりますが、アトロピンのような抗コリン剤が解毒薬として使われることがあります。

用量・用法

通常、1日1回3mgから開始し、2週間程度で5mgに増量します。高度なアルツハイマー型認知症に対しては、5mgを4週間投与後に10mgまで増量することが認められていますが、副作用が出やすくなるため、増量には十分な注意が必要です。

エピソード

アリセプトの開発者の一人である杉本八郎氏は、認知症になった母親に「あなたは誰？」と尋ねられた際に「息子の八郎ですよ」と答えたところ、「そうですか、私にも八郎という子供がいるんですよ」と返されたそうです。この経験が、杉本氏が認知症治療薬の開発に情熱を燃やすきっかけとなりました。会社から開発中止の命令を二度も受けましたが、杉本氏はそれを拒否し、5年以上の歳月をかけてアリセプトの開発に成功しました。1998年には、ドネペジル開発の功績が認められ、イギリスのガリアン賞を受賞しています。

その他

ドネペジルはラセミ体であり、2つのエナンチオマーが1：1で混合しています。

特許切れによりジェネリック医薬品に市場シェアを奪われたエーザイは、アデュカヌマブ、レカネマブといった新薬の開発を新興企業バイオジェンと協力して進めています。

参考文献

塚崎朝子『新薬に挑んだ日本人科学者たち』ブルーバックス B-1831、2013年

外部リンク

エーザイ株式会社
エーザイ医療関係者向けサイト
添付文書 - アリセプト錠3, 5, 10mg / アリセプト細粒0.5％ (PDF)
添付文書 - アリセプトD錠3, 5, 10mg (PDF)
アリセプトブランドサイト
アリセプト英語サイト
ドネペジル塩酸塩 - 第十七改正日本薬局方名称データベース

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