機能性胃腸症

機能性ディスペプシア（FD）とは

機能性ディスペプシア（Functional Dyspepsia：FD）は、胃の痛みやもたれ感、食後の膨満感、早期満腹感といった症状が慢性的に続くにも関わらず、内視鏡検査などの画像検査では潰瘍などの異常が確認されない状態を指します。2013年に保険診療名として認められるまでは、「慢性胃炎」などと診断されることがありました。機能性胃腸障害（FGID）の一つです。

用語について

「ディスペプシア」は、ギリシャ語の「悪い（Dys）消化（peptein）」に由来します。腹部の不快な状態、特に胃などの消化管の最初の部分に起こる症状を指し、腹痛、膨満感、胃もたれ、胸やけ、食欲不振、嘔吐などが含まれます。

ディスペプシアの定義の変遷

ディスペプシアの定義は時代とともに変化してきました。1989年にAGA（アメリカ消化器病学会）は、器質的な原因がないものを「non-ulcer dyspepsia（NUD）」と定義しました。その後、1991年のROME Iでは持続的または反復的な症状とされ、1999年のROME IIでは逆流や胸やけが除外されました。2006年のROME IIIでは、「機能性ディスペプシア」「機能性胃腸症」「機能性上腹部愁訴」が併記されました。

他の胃炎との関係

FDは、胃粘膜の炎症が見られないにも関わらず症状がある状態です。従来の日本では、炎症がなくても慢性胃炎と診断されることがありました。慢性胃炎とFDは同一ではなく、慢性胃炎を治療してもディスペプシアの症状が残る場合があります。また、逆流性食道炎もディスペプシア症状を呈することがありますが、プロトンポンプ阻害薬（PPI）で粘膜障害が治癒しても症状が残る場合は、FDを併発していると考えられます。

有病率

健康診断受診者の約11〜17%、上腹部症状で医療機関を受診する人の約44〜53%が機能性ディスペプシアと診断されています。

診断基準

国際的にはRome III分類が用いられています。日本国内では、Rome III分類を元に日本の実態に合わせたガイドラインが策定されました。

Rome IIIによる診断基準

以下の1つ以上の症状が存在し、かつ、症状を説明しうる形態的異常（上部内視鏡検査を含む）が見られないことが条件です。

煩わしい食後膨満感
早期飽満感
心窩部痛
心窩部灼熱感

症状は診断される6ヶ月以上前から発現し、診断前の3ヶ月間は基準を満たしている必要があります。

食後愁訴症候群（PDS）の診断基準

以下の少なくとも片方の項目を満たす必要があります。

週あたり少なくとも数回、通常量の食後におこる煩わしい食後膨満感
週あたり少なくとも数回、通常量の食事を完食することを妨げる早期飽満感

心窩部痛症候群（EPS）の診断基準

以下のすべての項目を満たす必要があります。

週あたりに少なくとも1回、中等度以上の心窩部に存在する痛みあるいは灼熱感
痛みは間欠的である
全身あるいは他の腹部や胸部に存在しない
排便あるいは胃腸内のガスの排泄によって軽快しない
胆嚢とオッジ括約筋障害の基準を満たしていない

症状

主な症状は、胃もたれ、膨満感、早期満腹感、みぞおちあたりの痛みや不快感です。吐き気、嘔吐、げっぷ、体重減少なども起こりえます。

原因

原因は完全には解明されていませんが、心理的ストレス要因と、体に対する物理化学的ストレスによる身体的要因の2つがあるとされています。精神的・身体的ストレス、過労、緊張状態が長く続くことで胃の機能が影響を受け、様々な症状を引き起こすと考えられています。その他、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、感染性胃腸炎、体質、生活習慣の乱れ、胃の変形なども原因となる場合があります。

メカニズム

もたれ感: 胃の貯留機能や排出機能の異常
知覚過敏: 胃壁の閾値が低下し、少量の刺激にも過敏に反応
胃酸の逆流: 十二指腸の運動機能の低下や胃の知覚過敏を引き起こす可能性
脳腸相関: 不安や抑うつ症状、虐待歴などが胃や腸の運動や感覚に異常をきたす

診断

問診後、上部内視鏡検査などにより症状の原因となる病態が同定できないとき、暫定的にFDと診断します。必要に応じて、腹部X線検査、超音波検査、血液生化学検査、便潜血検査、胃排出能検査、心理テストなどが行われます。

治療

症状の改善を目指し、生活習慣や食生活の改善、薬物療法、心理療法から選択されます。

生活習慣・食事療法: 規則正しい食生活、ストレスの軽減、十分な睡眠、定期的な運動
薬物療法: 胃酸分泌抑制薬、消化管機能改善薬、漢方薬など
ピロリ菌除菌: 消化不良に関連しやすい場合や、潰瘍や胃癌のリスクを下げるために検討

薬物療法

プロトンポンプ阻害薬（PPI）/ヒスタミンH2受容体拮抗薬（H2ブロッカー）: 胃酸の分泌を抑える
消化管機能改善薬: 消化管の運動改善と内臓の知覚過敏を改善
漢方薬: 六君子湯、安中散など

注意点

[非ステロイド性抗炎症薬] は消化不良を起こすことがあります。

関連項目

過敏性腸症候群（IBS）
自律神経失調症
不安障害
胃炎
胃もたれ

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