ドネルソン砦の戦い

ドネルソン砦の戦い

ドネルソン砦の戦い（Battle of Fort Donelson）は、1862年2月12日から16日にかけて、テネシー州西部で繰り広げられた南北戦争初期の重要な戦いです。この戦いで北軍は勝利し、カンバーランド川を南部への進攻路として確保しました。また、この戦いは、ユリシーズ・グラント准将を「無条件降伏」のグラントとして有名にし、その後の戦局を大きく左右する転換点となりました。

戦いの背景

ドネルソン砦の戦いは、ヘンリー砦の戦いの直後に発生しました。ヘンリー砦の占領により、北軍はテネシー州への侵攻ルートを確立。南軍は戦略的に困難な状況に追い込まれました。アルバート・ジョンストン将軍の指揮下にあった南軍は、ケンタッキー州に2つの部隊を擁していましたが、ヘンリー砦の占領により、それらの連携が困難になりました。ドネルソン砦の守備兵力は約5,000名と少なく、北軍はコロンバスやナッシュビルを脅かす可能性がありました。ジョンストンは、ヘンリー砦が北軍の砲艦によって容易に制圧されたことから、北軍の脅威を認識し、テネシー州防衛戦略を見直す必要性を感じました。その結果、ボーリング・グリーンの放棄を決定し、ナッシュビルへの撤退を開始しました。ドネルソン砦の防衛については、ボーリガードの助言を受け入れ12,000名の増援を送ることを決定しましたが、その防衛には依然として疑問が残りました。

ジョンストンは、ドネルソン砦の指揮をボーリガードに任せたかったのですが、ボーリガードが病気のため辞退したため、代わりにジョン・B・フロイド准将が指揮を執ることになりました。フロイドは、以前にロバート・E・リーの下で失敗を重ねており、政治家としての経歴はあるものの軍人としての経験は乏しい人物でした。

北軍側では、グラントの上官であるヘンリー・ハレックもこの作戦に懸念を抱いていました。ハレックはグラントの成功を認めつつも、彼の性格を「向こう見ず」だと考えており、慎重な姿勢を崩しませんでした。しかし、グラントはハレックが作戦を中止する可能性を認識し、迅速な行動を心掛けました。2月6日、グラントはハレックに電報を送り、ドネルソン砦の占領を予告しましたが、その楽観的な見通しには、ドネルソン砦までの道のりの困難さ、物資輸送の問題、海軍の損傷などの課題が含まれていました。

戦力

北軍のカイロ地区軍は、ジョン・A・マクラーナンド、チャールズ・F・スミス、ルー・ウォーレス各准将の3個師団から構成され、総勢は約25,000名でしたが、戦闘開始時には約15,000名でした。海軍は、アンドリュー・H・フット提督指揮下の7隻の砲艦で構成されていました。

南軍は、フロイド、ブッシュロッド・ジョンソン、サイモン・B・バックナー各准将の3個師団で構成され、総勢は約17,000名でした。ドネルソン砦は、カンバーランド川から約30メートル高い位置にあり、川からの攻撃に対して有利な防御力を有していました。また、砦の周囲には約5キロメートルの塹壕が構築されていました。

戦闘の経過

初期の動きと攻撃（2月12-13日）

2月12日、北軍はヘンリー砦からドネルソン砦に向けて進軍を開始しましたが、南軍の騎兵隊による妨害を受けました。北軍は、砦の防御力を試すための砲撃を行いましたが、本格的な戦闘は翌日に持ち越されました。2月13日、北軍は南軍の防御を偵察するための小規模な戦闘を行いましたが、大きな成果は得られませんでした。また、この日、吹雪に見舞われ、両軍ともに厳しい夜を過ごしました。

海軍の戦いと増援（2月14日）

2月14日、南軍は砦の防衛が困難であると判断し、脱出を試みましたが、北軍に動きを察知され延期されました。同日、北軍はルー・ウォーレスの旅団とフットの海軍艦隊が到着し、戦力を増強しました。グラントは、フットに砦の川向き砲台への攻撃を命じましたが、南軍の砲撃により、北軍艦隊は大きな損害を受け、フット自身も負傷しました。この海戦での北軍の敗北は、グラントに陸戦で勝利する必要性を認識させました。

南軍の突破試み（2月15日）

2月15日、南軍は北軍戦線の脆弱な部分を狙い、マクラーナンド師団に対して攻撃を仕掛けました。この攻撃は当初成功し、北軍を後退させましたが、グラントが戦場に到着すると状況は一変しました。グラントは、南軍が逃亡を試みていると判断し、スミスにドネルソン砦を奪還するよう指示しました。スミスの反撃は成功し、南軍は塹壕線を奪い返されました。また、ルー・ウォーレスも部隊を率いて攻撃を行い、失われた陣地を全て取り戻しました。

降伏（2月16日）

2月16日、フロイドとピローは指揮権をバックナーに委ね、自身は脱出しました。バックナーはグラントに対して休戦と降伏条件を求めましたが、グラントは「無条件降伏」を要求しました。バックナーは、この条件に反発しましたが、最終的には12,000から15,000名の兵士と48門の大砲とともに降伏しました。

戦いの結果と影響

ドネルソン砦の戦いでの損失は、北軍が2,691名、南軍が13,846名でした。この戦いの勝利は、北軍にとって南北戦争における最初の重要な勝利であり、グラントを英雄にしました。また、カンバーランド川を確保したことで、北軍は南部の心臓部への侵攻が可能になりました。グラントは志願兵少将に昇進し、西部戦線における重要な指揮官となりました。南軍は、この戦いの敗北により、ナッシュビルを明け渡すことを余儀なくされ、テネシー州の大部分が北軍の支配下に置かれました。ドネルソン砦の戦場跡は、現在ドネルソン砦国定戦場として保存されています。

脚注

[1] この戦いは、アメリカ南北戦争の西部戦線における重要な出来事であり、北軍の勝利に大きく貢献しました。
[2] この戦いでのグラントの「無条件降伏」の要求は、彼の勇気と決意を示すものとして歴史に刻まれました。

関連項目

南北戦争
西部戦線 (南北戦争)
ヘンリー砦の戦い

参考文献

Cooling, Benjamin Franklin, The Campaign for Fort Donelson, U.S. National Park Service and Eastern National, 1999, ISBN 1-888213-50-7.
Eicher, David J., The Longest Night: A Military History of the Civil War, Simon & Schuster, 2001, ISBN 0-684-84944-5.
Esposito, Vincent J., West Point Atlas of American Wars, Frederick A. Praeger, 1959.
Foote, Shelby, The Civil War, A Narrative: Fort Sumter to Perryville, Random House, 1958, ISBN 0-394-49517-9.
Gott, Kendall D., Where the South Lost the War: An Analysis of the Fort Henry—Fort Donelson Campaign, February 1862, Stackpole books, 2003, ISBN 0-8117-0049-6.
Kennedy, Frances H., Ed., The Civil War Battlefield Guide, 2nd ed., Houghton Mifflin Co., 1998, ISBN 0-395-74012-6.
McPherson, James M., Battle Cry of Freedom: The Civil War Era (Oxford History of the United States), Oxford University Press, 1988, ISBN 0-19-503863-0.
Nevin, David, and the Editors of Time-Life Books, The Road to Shiloh: Early Battles in the West, Time-Life Books, 1983, ISBN 0-8094-4716-9.
Woodworth, Steven E., Nothing but Victory: The Army of the Tennessee, 1861 – 1865, Alfred A. Knopf, 2005, ISBN 0-375-41218-2.
National Park Service battle description
Huffstodt, James, Hard Dying Men: The Story of the "Old Eleventh" Illinois Infantry, General W. H. L. Wallace, and General Thomas E. G. Ransom in the American Civil War (1861-1865), Heritage Press, ISBN 1556135106.

外部リンク

General U. S. Grant's Report of the Capture of Fort Donelson
Animated History of The Battles of Forts Henry and Donelson

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