ドメニコ・チマローザ

ドメニコ・チマローザは、1749年12月17日にナポリ近郊アヴェルサで生を受け、1801年1月11日にヴェネツィアでその生涯を閉じました。イタリアを代表する作曲家であり、特にオペラ・ブッファの分野で多大な功績を残しています。

レンガ職人の父と洗濯婦の母という決して裕福とは言えない家庭に育ちましたが、幼い頃から音楽の才能を発揮。父を事故で亡くした後、その楽才を見抜いた僧院のオルガン奏者の援助を受け、11歳で現在のナポリ音楽院の前身であるサンタ・マリア・ディ・ロレート音楽院に入学を許可されました。

音楽院での学びを終えた後、チマローザは作曲家としての道を歩み始めます。22歳での最初のオペラ発表を皮切りに、作曲家としてのキャリアをスタートさせ、29歳頃からはローマを中心に活動を展開。当時のローマでは女性の舞台出演が禁じられていたため、彼の作品はカストラートによって歌われました。約70曲に及ぶオペラ作品のほか、ミサ曲やレクイエムといった教会音楽、チェンバロのためのソナタなど、多岐にわたるジャンルで美しい旋律を生み出しました。

その名はイタリア国内にとどまらず、ヨーロッパ各地に知れ渡り、各国の宮廷から招かれるようになります。38歳でロシアの女帝エカテリーナ2世に招かれペテルブルクの宮廷楽長となりますが、現地の演奏環境に満足できず短期間で退任。続いて42歳でオーストリアのレオポルト2世に招かれ、アントニオ・サリエリの後任としてウィーンの宮廷楽長に就任します。このウィーン時代、43歳の時に作曲されたオペラ『秘密の結婚』は彼の代表作となり、今なお世界各地で上演されています。しかし、レオポルト2世の崩御もあり、ウィーンでの地位に対する執着は薄れたようです。

44歳で故郷ナポリに戻ったチマローザは、『女の手管』、『ペネローペ』などの新作オペラを次々と発表し、再びナポリの音楽界で精力的に活動しました。しかし、彼の人生は政治的な激動に翻弄されます。1799年にナポリで一時的に共和制が樹立されると、チマローザは革命政府のために新時代の到来を祝う詩に作曲しました。王政復古後、この行為が反逆とみなされ、同年12月に逮捕、ナポリからの永久追放処分を受けます。友人や支援者の尽力により死刑は免れたものの、拘禁による体力消耗は著しく、ヴェネツィアへ亡命後の1800年12月には体調を崩しました。

1801年1月11日、ヴェネツィアで依頼されていたオペラ『アルテミシア』を未完のまま急逝します。国際的に高名だった彼の突然の死には毒殺説が囁かれましたが、ナポリ政府はこれを否定し、検視の結果として内臓疾患（胃癌）であったと発表しました。

チマローザは、ロッシーニが登場するまでの間、オペラ・ブッファの分野で揺るぎない第一人者としての地位を確立しました。彼の作品は、流麗な旋律と巧みな劇運びで聴衆を魅了し、その影響は後世の作曲家にも及びました。同時代の文豪ゲーテも彼の音楽を高く評価しており、また現代においても、オーストラリアの作曲家アーサー・ベンジャミンが彼のチェンバロ・ソナタを編曲したオーボエ協奏曲は広く知られています。

主要作品（一部抜粋）

オペラ
秘密の結婚（Il matrimonio segreto）
悩める劇場支配人（L'impresario in angustie）
女の手管（Le astuzie femminili）
ロンドンのイタリア女（L'italiana in Londra）

その他
レクイエム ヘ長調
88曲のチェンバロ・ソナタ（ピアノソナタ）
2本のフルートのための協奏曲 ト長調
オーボエ協奏曲 ハ短調（アーサー・ベンジャミン編曲）

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