無情の世界

ローリング・ストーンズ「無情の世界」：時代を超えて愛される名曲の軌跡

1969年、ローリング・ストーンズによって世に送り出された楽曲「無情の世界」(You Can't Always Get What You Want)は、7分を超える壮大なスケールと、美しくも切ないメロディーが特徴的な名曲です。ミック・ジャガーとキース・リチャーズによって作詞作曲されたこの曲は、アルバム『レット・イット・ブリード』に収録されており、シングルカットもされましたが、アルバムバージョンとは異なる編集が施されたものでした。

複雑なレコーディング過程：メンバー不在と意外な参加者たち

この楽曲のレコーディングは、幾多の困難と意外な出来事を経て完成しました。1968年11月、ロンドンのオリンピック・スタジオで最初のレコーディングが行われ、翌年にはジャック・ニッチェによる編曲でコーラスが追加されました。しかし、このレコーディングには、当時のメンバーであるブライアン・ジョーンズは全く関わっていませんでした。スタジオにいたものの、植物の本を読んでいるだけだったという証言が残されています。さらに、ドラムスはチャーリー・ワッツではなく、プロデューサーのジミー・ミラーが担当しました。ジャガーによると、ワッツがこの曲特有のグルーヴを奏でることができなかったため、ミラーが代わりに演奏したとのことです。この出来事について、参加ミュージシャンのアル・クーパーは、ワッツが落胆しながらもプロ意識を持って受け入れたと回想しています。

アルバムとシングル、そして多様なカバー

「無情の世界」は、『レット・イット・ブリード』にフルバージョンで収録され、1973年には日本でA面シングルとしてリリースされるなど、様々な形で世に出回りました。その独特な魅力は、多くのアーティストにカバーされることにも繋がっています。ベット・ミドラー、アレサ・フランクリン、ジョージ・マイケル、デフ・レパード、ネヴィル・ブラザーズなど、数多くの著名なミュージシャンが、それぞれの解釈でこの曲をカバーし、楽曲の普遍的な魅力を証明しています。

政治利用と世界的イベントへの参加

この曲は、政治的な場面でも使用されました。2016年のアメリカ大統領選挙では、ドナルド・トランプ陣営がストーンズの許可なく「無情の世界」と「スタート・ミー・アップ」を使用し、バンド側は使用停止を要求しましたが、トランプ側はこれを無視しました。この件は、ニール・ヤングやR.E.M.、アデルなど、多くのアーティストからも抗議を受けています。

対照的に、2020年にはコロナ禍におけるチャリティコンサート「One World: Together at Home」で、ローリング・ストーンズのメンバー4人がリモートでこの曲を演奏し、希望のメッセージを発信しました。この取り組みは、世界的な困難な状況下においても、音楽が人々を繋ぐ力を持つことを示しています。

評価とライブパフォーマンス

「無情の世界」は、ローリング・ストーン誌の「オールタイム・グレイテスト・ソング500」で101位にランクインするなど、高い評価を受けています。また、1972年からストーンズのコンサートのレパートリーに加わり、長年に渡り観客を魅了し続けています。『ラヴ・ユー・ライヴ』、『フラッシュポイント』、『ライヴ・リックス』など、多くのライブアルバムにも収録されており、そのライブパフォーマンスの素晴らしさも広く知られています。

まとめ：時代を超える普遍性

「無情の世界」は、複雑なレコーディング過程や政治利用といった様々な出来事を経て、今日まで多くの人々に愛され続けている楽曲です。その魅力は、壮大なスケール、美しく切ないメロディー、そして「欲しいものがいつでも手に入るとは限らない」という普遍的なメッセージにあります。これからも、この曲は多くのリスナーの心に響き続け、時代を超えて愛される名曲として存在し続けるでしょう。

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