ドロノキ

ドロノキ（泥の木）

基本情報

ドロノキ（学名：Populus suaveolens）は、ヤナギ科ヤマナラシ属に分類される落葉性の高木です。主に山間部の水辺や湿潤な場所に自生し、同じヤマナラシ属の樹木はポプラとして知られています。

名前の由来と別名

和名である「ドロノキ」の由来にはいくつかの説があります。一つは、樹皮の色が泥に似ているためという説。もう一つは、木材が泥のように非常に柔らかい性質を持つためという説です。地方によっては多様な別名で呼ばれており、「ドロヤナギ」「ドロ」「ワタドロ」「ワタノキ」といった名前が見られます。「ワタドロ」や「ワタノキ」といった別名は、特に種子に付く綿毛が特徴的であることに由来しています。このほか、「デロ」「チリメンドロ」といった呼び方や、地域によっては「ドロボウ」「ドロッペイ」「ヘロッポ」「バタバタ」などユニークな名前で親しまれています。中国では「遼楊」と呼ばれます。

分布と生態

日本では、北海道から本州の中部地方にかけて広く分布しています。水分を多く含む土壌を特に好み、川の岸辺にある砂地や、川の流れによって形成された中洲の上、低い河岸段丘、そして湿地帯などでよく見られます。

ドロノキは、泥流や火山噴火などによって既存の植生が破壊された後に、いち早くそこに生育して森林を形成し始める「先駆種」としての性質を持っています。また、地上に落ちた枝から根を出し、独立した新しい個体として成長するという「落枝条更新」という特殊な繁殖能力を持っています。非常に強い光を好む「陽樹」であり、光合成効率が高い葉は夏が終わる頃には早くも黄色く色づき始め、落葉期を迎えます。

形態

ドロノキは高さ15メートルから30メートル、幹の直径も70センチメートルから150センチメートルに達する大型の落葉広葉樹です。若い木の樹皮は緑白色で滑らかですが、成長するにつれて暗灰色へと変化し、縦に深い裂け目が入るようになります。若い樹皮には菱形の皮目が点々と見られます。一年生の新しい枝には毛が生えていることが多く、短い枝もよく発生します。

葉は枝に互い違いにつく「互生」で、特に短枝には密集して葉がつきます。葉の形は広楕円形で、長さは10センチメートル程度です。葉の縁には鋸歯があり、裏面は光沢のある白っぽい色をしています。

花期は4月から6月にかけてです。ドロノキは雌雄が別々の木に分かれている「雌雄異株」の植物で、雌の木には卵形の実がなります。実の中に含まれる種子には、ヤナギの仲間と同様にふわふわとした綿毛がついており、この綿毛によって風に乗って遠くまで散布されたり、水面に落ちて水の流れで運ばれたりします。種子の散布は夏の時期に行われ、秋には発芽します。

冬芽は細長く尖った長卵形をしており、表面は樹脂で覆われています。枝の先端につく頂芽は、枝の側面に互生してつく側芽よりも大きいのが特徴です。芽を包む芽鱗は、頂芽には6枚から10枚、側芽には3枚から4枚あり、通常は毛がありませんが、縁には短い毛が生えています。頂芽は通常、葉に成長する葉芽です。

利用と材の性質

ドロノキの木材は非常に軽くて柔らかく、重い荷重に弱く、腐りやすい性質を持ちます。さらに燃えやすいため、建築材料としてはほとんど適していません。しかし、その柔らかさが衝撃を吸収することから、かつては弾薬箱の材料として利用された時期がありました。また、比較的安価な下駄やマッチの軸にも使われましたが、マッチ軸としてもすぐに折れてしまう質の低い材とされ、現在では木材としての利用価値はほとんどないとされています。成長が早いという特徴に着目した製紙会社が、パルプ材としての品種改良を試みた記録がありますが、その後の研究は続けられなかったようです。

材木としては軽くて柔らかいにも関わらず、ノミや鉋といった木材加工に使う刃物が非常に早く傷んでしまうという特異な性質があります。実際に計測したデータによると、堅いことで知られるミズナラを加工する際の数倍もの速度で、切削工具の刃が摩耗することがわかっています。この奇妙な性質が、「泥の木」という名称の由来と関連付けられることもあり、「根から泥を吸い込むせいだ」とする説や、「泥のように柔らかすぎて使い道がないから」という説、あるいは北海道地方の方言に由来するという説など、諸説ありますが、明確な理由はまだ解明されていません。現在では、木材の中心部に多量の炭酸カルシウムが含まれていることが、刃物を傷める原因だと考えられています。

かつては、種子の綿毛を集めて、布団の中身や衣類に使われる綿の代わりとして利用されたこともありました。しかし、現代ではこのような利用はされなくなり、夏の散布期には大量の綿毛が風に乗って飛び、道端に積み上がったり、住宅の網戸や換気扇を目詰まりさせたりするなど、都市部では問題となるケースも発生しています。

一方で、根が水分を多く含む土壌に強く張る性質や成長の早さを活かし、川沿いなどで防風林として植栽される事例は少なくありません。

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