ナクソス公国

ナクソス公国：エーゲ海に咲いたヴェネツィアの十字軍国家

ナクソス公国は、第4回十字軍の混乱に乗じて、ヴェネツィア人がエーゲ海に建設した十字軍国家です。現在のギリシャ領であるナクソス島やパロス島を中心とする島々を支配し、その歴史は、地中海の覇権をめぐる争い、東西文化の交流、そしてオスマン帝国の進出といった、複雑な要素が絡み合っています。

建国と領土

1204年の第4回十字軍後、ヴェネツィア共和国は、その勢力をエーゲ海に拡大しました。その中で、マルコ・サヌードがナクソス島を占領し、1207年にナクソス公国を建国しました。サヌードは、パロス島、アンティパロス島、ミロス島など、多くの島々を自らの所領とし、さらにアンドロス島やティノス島といった他の島々を家臣に分け与えました。これにより、ナクソス公国は、エーゲ海の広範囲に及ぶ島嶼部を支配する国家となりました。

統治体制

ナクソス公国の統治体制は、西欧の封建制度を基盤としていました。しかし、コムネノス朝東ローマ帝国のプロノイア制と類似していたため、支配下のギリシア人住民の間では大きな混乱は生じなかったようです。歴代のナクソス公は、ギリシア人住民の心情に配慮し、懐柔政策を採りました。これにより、比較的安定した統治を実現し、ギリシア人住民も平和な生活を送ることができたとされています。

滅亡

ナクソス公国は、16世紀にオスマン帝国の勢力拡大に巻き込まれ、その歴史に終止符を打ちます。1566年、オスマン帝国のスルタン・セリム2世によって、当時の公爵であったジャコモ4世は退位させられ、代わってポルトガル系のユダヤ人であるヤセフ・ナッスィが公位に就けられました。しかし、ナッスィの死後、スルタンは遺産を没収し、ナクソス公国はオスマン帝国の支配下に入りました。

その後

ナクソス公国が滅亡した後も、一部の島々ではカトリック勢力による支配が続きました。ボローニャのゴッザディーニ家はシフノス島などを1617年まで支配し、ヴェネツィア共和国も1714年までティノス島を維持しました。また、ダルマティア地方の貴族であったガシュパル・グラツィアーニは、1579年にナクソス公の地位を授与されています。

エーゲ海におけるヴェネツィアの植民地

ヴェネツィア共和国は、ナクソス公国以外にも、エーゲ海の島々に植民地を築き、その勢力を拡大しました。クレタ島をモンフェラート侯ボニファーチョ1世から購入し、エヴィア島（ネグロポンテ）の大部分を貿易拠点として統治しました。また、ギリシャ本土にも多くの港を保有し、地中海における商業的な覇権を確立しました。

ナクソス公国の君主一覧

サヌード家
マルコ1世サヌード (1207 – 27)
アンジェロ (1227 – 62)
マルコ2世 (1262 – 1303)
グッリェルモ1世 (1303 – 23)
ニッコロ1世 (1323 – 41)
ジョヴァンニ1世 (1341 – 62)
フィオレンツァ (1362 – 71)
ニッコロ2世 (1364 – 71)
ニッコロ3世ダッレ・カルチェリ (1371 – 83)
クリスポ家
フランチェスコ1世クリスポ (1383 – 97)
ジャコモ1世 (1397 – 1418)
ジョヴァンニ2世 (1418 – 33)
ジャコモ2世 (1433 – 47)
ジャン・ジャコモ (1447 – 53)
グッリェルモ2世 (1453 – 63)
フランチェスコ2世 (1463 - 63)
ジャコモ3世 (1463 – 80)
ジョヴァンニ3世 (1480 – 94)
（空位）
フランチェスコ3世 (1500 – 11)
（空位）
ジョヴァンニ4世 (1517 – 64)
ジャコモ4世 (1564 – 66)
オスマン帝国影響下
* ヤセフ・ナッスィ

ナクソス公国の歴史は、十字軍国家の興亡、ヴェネツィアの海洋帝国、そしてオスマン帝国の進出といった、地中海世界の歴史を凝縮したものです。その足跡は、今もエーゲ海の島々に残っています。

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