ナコト写本

クトゥルフ神話の謎めいた文献：ナコト写本とエルトダウン・シャーズ

クトゥルフ神話において、古の謎を秘めた架空の文献として『ナコト写本（Pnakotic Manuscript）』と『エルトダウン・シャーズ（Eltdown Shards）』の存在が知られています。両文献は、イースの大いなる種族といった、神話世界における重要な要素と深く関わっており、多くのクトゥルフ神話作品に影響を与えています。本稿では、これらの文献の起源、内容、そして関連する作家たちの設定について詳細に解説します。

ナコト写本：太古の知恵と破滅の予兆

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトによって創造されたナコト写本は、クトゥルフ神話に登場する文献の中でも最も古いものの1つに数えられます。その初出は『北極星』です。完全版はドリームランドにあるとされ、目覚めの世界には15世紀に翻訳された不完全な英語写本が5冊存在するのみです。

ラヴクラフトの設定によると、ナコト写本は氷河期以前の北極圏に存在したロマール族が所有していました。ノフ＝ケーによるロマール族の滅亡後、最後の1冊はドリームランドのウルタールの神殿に運ばれ、大切に保管されています。賢人バルザイはこの書から「大地の神々」に関する知識を得たとされています。

目覚めの世界に残された断片には、イースの大いなる種族に関する記述や、ラーン＝テゴスに関する詳細な情報が含まれています。特に第八断片はラーン＝テゴスに関する記述が豊富で注目に値します。なお、ナコト写本とエルトダウン・シャーズの内容には類似点が見られます。

リン・カーターは、ナコト写本に関する設定をさらに発展させました。カーターによれば、ナコト写本はイースの大いなる種族が未来に旅立った後に残した記録をまとめたもので、その都市名「ナコタス」に由来する名称です。「ナコトの同胞教団」によって編纂されたとされています。

『無名祭祀書』には、時間を遡る方法が記されており、その儀式には「ナコト五芒星形」が必要とされます。この五芒星形はナコト写本に由来するとされています。『妖蛆の秘密』にも関連した記述が見られます。また、ナコト写本の末尾には、ハイパーボリア滅亡の顛末が記されていますが、これはナコトの同胞教団による後世の追記だと考えられています。ロマールとハイパーボリアは共に古代グリーンランド付近に存在したとされていますが、両者の時間的関係は不明瞭です。

ドリームランドに持ち込まれたものとは別に、ロマールの生き残りが書き継いだナコト写本も存在し、マサチューセッツ州のある町に伝わっています。この写本はヴーアミ族と関わり、設定が複雑化しています。

ナコト写本は、ラヴクラフト、ダーレス、リン・カーター、ロバート・M・プライスといった多くの作家によって作品に取り上げられています。

エルトダウン・シャーズ：粘土板に刻まれた異形の知恵

エルトダウン・シャーズは、リチャード・F・シーライトによって創造された文献です。初出は『暗根』です。1882年、イギリス南部エルトダウンの三畳紀の地層から発掘された23枚の粘土板破片から成り立っています。人類以前の言語で書かれており、当初は翻訳不可能とされましたが、アーサー・ブルック・ウィンスタース＝ホール牧師とウィットニィ博士がそれぞれ独自の翻訳に成功しています。

ホール牧師版は、イースの大いなる種族やイース星系に関する記述があり、イェーキュブの生物による地球侵略を大いなる種族が阻止した経緯が記されています。その内容はナコト写本と類似しています。一方、ウィットニィ博士版は第19粘土板のほぼ完全な翻訳で、「知識を守るもの」の召喚術が記されていますが、博士は翻訳完了後に死亡しています。この版には魔道師オム・オリスと悪魔アヴァロスの戦いについても記されています。

シーライトの息子、フランクリン・シーライトもクトゥルフ神話を創作しており、プニーフタールへの言及など、エルトダウン・シャーズの内容を拡張する記述をしています。

ラヴクラフトの『アロンソ・タイパーの日記』では、ナコト写本とエルトダウン・シャーズの両方がコラズィン村のヴァン・デル・ハイル屋敷に存在すると記されています。リン・カーターはホール牧師版小冊子を「サセックス稿本」と呼んでおり、エルトダウンとサセックスが混同されている点も興味深いです。

エルトダウン・シャーズは、ラヴクラフト、シーライト父子によって作品に取り上げられています。

ナコト写本とエルトダウン・シャーズの関連性

ナコト写本とエルトダウン・シャーズは、イースの大いなる種族や古代文明といった共通のテーマを持ち、内容に類似性が見られます。両文献は、クトゥルフ神話世界における太古の謎を解き明かす鍵となる重要な存在であり、作家たちの解釈によって様々な解釈が加えられてきました。その共通点と相違点を比較検討することで、クトゥルフ神話世界の奥深さをより理解することができるでしょう。両文献は、クトゥルフ神話研究において、今後も重要な研究対象として残っていくことでしょう。

もう一度検索