妖蛆の秘密

妖蛆の秘密：クトゥルフ神話における禁断の魔道書

『妖蛆の秘密』（英: Mysteries of the Vermis、羅: De Vermis Mysteriis）は、クトゥルフ神話において重要な役割を果たす架空の魔道書です。ロバート・ブロックによって創造され、クトゥルフ神話の根幹を成す『ネクロノミコン』に匹敵する存在として、多くの作品で言及されています。

起源と作者

この魔道書の作者は、ルートヴィヒ・プリン（Ludwig Prinn）という人物とされています。設定上、プリンはフランドル出身の錬金術師にして魔術師。第九回十字軍の生き残りだと自称し、シリアでの捕虜生活中に魔術を学びました。異端審問によって処刑される直前、獄中で『妖蛆の秘密』を執筆したとされています。

1542年、ケルンで出版された初版本は、鉄製の表紙を持つ分厚い黒本でした。出版直後に教会から禁書とされ、その後は内容を大幅に削除した検閲版が流通するようになりました。そのため、危険な初版本は非常に稀少なものとなっています。

内容と解釈

『妖蛆の秘密』の内容は、古代エジプトの異端的な信仰や儀式、そして様々な邪神についての記述が中心です。特に「サラセン人の儀式」と題された章では、詳細な解説がなされているとされています。蛇神（Worm）に関する記述も多く、イグ、ハンといった蛇神や、セベク、バステトといったエジプト神話の神々も登場しますが、それらは異端の邪神として描かれています。さらに、エジプト史から抹消されたナイアーラトテップ信仰や、ネフレン＝カ王といった存在についても触れられているとされています。

ロバート・ブロックの作品『星から訪れたもの』（邦題が複数あり、そのうちの一つが意訳で『妖蛆の秘密』）では、この魔道書に記された方法を用いて、星の精を召喚する描写があります。

ラヴクラフト作品における言及と影響

ラヴクラフト自身は『妖蛆の秘密』をメインで使用したわけではありませんが、自身の作品である『時間からの影』と『闇をさまようもの』の2作品に登場させています。ミスカトニック大学図書館や、星の智慧派教会跡地に所蔵されているという設定です。

ブロックとラヴクラフトの交流から生まれたこの魔道書は、他のクトゥルフ神話作家にも大きな影響を与えました。ヘンリー・カットナー、ブライアン・ラムレイ、スティーブン・キングなど、多くの作家が作品の中で『妖蛆の秘密』を重要なアイテムとして使用しています。

ラムレイの『妖蛆の王』では、1820年にチャールズ・レゲットによる英語版が出版されたとされ、アザトースの召喚方法が記されているとされています。その内容は核爆発の起こし方であるという解釈も存在します。

キングの『呪われた村』では、物語の鍵となるアイテムとして、ラテン語とルーン文字が混在した『妖蛆の秘密』が登場します。また、『心霊電流』では、カトリック教会の禁書6冊の内の2冊として『妖蛆の秘密』と『ピカトリクスのグリモワール』が挙げられており、これら2冊を参考にラヴクラフトが『ネクロノミコン』を創作したという噂が語られています。

邦訳名と読み方

日本語訳は荒俣宏氏による「妖蛆の秘密」が有名ですが、当初は読み方は特に定まっていませんでした。音読みでは「ようそ」となりますが、「ようしゅのひみつ」と読むのが一般的となっています。これは、大瀧啓裕氏が1982年に「ようしゅのひみつ」とルビを振ったことに由来し、以降の翻訳作品で広く用いられるようになりました。この読み方は、先行して翻訳されていたスミスの『白蛆の襲来』からの影響が指摘されています。

まとめ

『妖蛆の秘密』は、単なる架空の魔道書にとどまらず、クトゥルフ神話の世界観を構築する上で重要な役割を果たす存在です。その謎めいた内容、そして様々な作家による解釈は、読者に深い考察と想像力を掻き立てます。クトゥルフ神話ファンのみならず、オカルトやホラー小説ファンにも必見の、魅力的な存在と言えるでしょう。

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