ナショナル航空27便エンジン破損事故

ナショナル航空27便エンジン破損事故の概要

1973年11月3日、ナショナル航空27便は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州上空で、深刻な航空事故に見舞われました。事故発生時刻は山岳部標準時で午後4時40分ごろ、場所はアルバカーキの南西約120キロメートル、高度約39,000フィートでした。この事故では、ナショナル航空のダグラスDC-10-10型機（機体記号：N60NA）の第3エンジンで、ファンブレードが破損・飛散するという重大な事態が発生しました。

破損したファンブレードの破片は、胴体、第1および第2エンジンナセル、右翼に直撃し、機体に深刻な損傷を与えました。機体はその後、アルバカーキ国際空港への緊急着陸に成功しましたが、破片の一つが客室窓に当たり、急減圧が発生。開口部からシートベルトをしていた乗客1名が機外に吸い出され、行方不明となりました。この痛ましい出来事は、航空機の安全管理における脆弱性と、事故発生時の衝撃的な影響を浮き彫りにしました。

事故機の履歴

事故を起こしたマクドネル・ダグラスDC-10-10（N60NA）は、1971年に製造され、同年11月にナショナル航空に納入されました。当初、「Barbara号」と名付けられていましたが、事故後の修理を経て「Suzanne号」と改名し、再就航しました。ナショナル航空がパンアメリカン航空に合併された後の1984年にはアメリカン航空に売却され、機体記号をN145AAに変更しました。その後、1994年以降はストア状態となり、2002年に解体されました。

事故調査の結果

事故調査では、いくつかの興味深い事実が明らかになりました。

飛行中のコックピットクルーの退屈

事故発生当時、自動操縦で飛行中だったコックピットクルーは、エンジンファン速度 (N1) インジケータと自動操縦システムの関係に興味を持ち、実験を行っていました。機長と機関士の間では、以下のようなやり取りがありました。

機関士：「N1 の回転計を取り外してしまったら、自動スロットルは反応するのでしょうか？」
機長：「いやー、判らない」
機関士：「どうなるかやってみましょうよ」
機長：「では、やってみよう」

クルーは、自動スロットルを257KIASに設定し、機関士が3つあるN1回転計のサーキットブレーカーを全て引き抜きました。その後、機長が自動スロットルの設定を5ノット下げると、スロットルが自動でパワーを下げる方向に動きました。この動きを確認したクルーは満足し、自動スロットルを解除した直後に爆発音が聞こえ、客室の急減圧が発生しました。

ファンブレードの共鳴

調査の結果、当該機に使用されていたGE製CF6-6DエンジンのN1回転数上限は定格の111%でしたが、第3エンジンは、他のエンジンが107%にまで上昇したときに、まだN1が100%だったにもかかわらずファンブレードの飛散が始まっていたことが判明しました。許容回転数以下でも、特定の角加速度条件ではファンブレードの共鳴が生じ、定常波が発生したと考えられていますが、事故報告書では「詳細な理由は不明である」と結論付けられました。

事故に関する備考

この事故の概要は、柳田邦男氏の著書『航空事故』（中央公論社刊、1975年）にも記述されています。著書では、この事故を「007の恐怖」と表現し、敵役が銃撃で割れた窓から空中に吸い出される007ゴールドフィンガーのクライマックスシーンになぞらえています。

関連事項

ナショナル航空（英語版）
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外部リンク

Aviation Safety Network

この事故は、航空機の安全性における多くの教訓を示唆し、その後の航空機設計と安全管理に大きな影響を与えました。特に、エンジン設計における共鳴現象の解明や、コックピットクルーの判断の重要性が再認識されました。

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