ナシ亜科

ナシ亜科（リンゴ亜科）とは

ナシ亜科（Pyroideae）またはリンゴ亜科（Maloideae）は、かつてバラ科の中に存在した亜科の一つです。この分類群には、リンゴ、ナシ、ビワ、ナナカマドなど、私たちになじみ深い多くの植物が含まれていました。しかし、近年の分子系統解析による研究が進むにつれて、従来の分類体系が見直され、ナシ亜科（リンゴ亜科）は独立した亜科としての地位を失うことになりました。

現在の分類

現在の分類では、ナシ亜科（リンゴ亜科）はサクラ亜科（モモ亜科）に統合され、その中のナシ連（Pyreae）またはリンゴ連（Maleae）というグループに相当します。つまり、かつてナシ亜科に分類されていた植物群は、現在ではサクラ亜科の一部として扱われるようになりました。

この分類変更の背景には、従来のナシ亜科が、シモツケ亜科に含まれる植物群の一部であり、系統的にまとまりがない、側系統群であることが判明したことがあります。そのため、シモツケ亜科に内包されていたサクラ亜科などを統合し、より自然な分類体系が追求されることになりました。

新しい亜科は当初シモツケ亜科とされましたが、先行名であるサクラ亜科（モモ亜科）Amygdaloideaeが使われることになりました。

過去の分類

かつての分類では、ナシ亜科（リンゴ亜科）は、リンゴ連とサンザシ連の2つのグループに分けられていました。しかし、分子系統解析の結果、この分類は系統関係を反映していないことが明らかになりました。

また、ディコトマンテス属のように、分類上の位置が定まらない植物もありました。この属は、リンゴ連、サンザシ連、さらには独立した亜科とする説まで存在しましたが、現在ではナシ亜連に属することがわかっています。

基底的な3属であるカゲネキア属、リンドレーア属、ヴォークリニア属は、かつてはシモツケ亜科に分類されたり、他の連に分類されたりしていましたが、現在ではナシ亜連の基底的な位置を占めることがわかっています。

特徴

ナシ亜科（リンゴ亜科）の植物は、近縁のギレニア属と比べて、いくつかの特徴的な違いがあります。

染色体数: ギレニア属は9本の染色体を持つのに対し、ナシ亜科の植物は17本の染色体を持っています。これは、8本の染色体を持つ種との交雑によって染色体数が増加したと考えられています。ただし、ヴォークリニア属のように染色体数が15本に減少している例もあります。
生活形: ギレニア属は草本ですが、ナシ亜科の植物はすべて木本です。
原基の形: ギレニア属の原基は平らな形をしているのに対し、ナシ亜科の原基はリング状をしています。

また、ナシ亜連の植物は、果実を花托が包み込むように肥厚して偽果（ナシ状果）を形成します。この偽果は、リンゴやナシなどの食用部分として利用されています。一方、ナシ亜連以外の植物は、祖先的な形質の蒴果を保持しています。

子房は下位で、心皮は2ないし5個あり、合着して1本の雌蕊になっています。

ナシ連の属

以下は、Potter et al. (2007) によるナシ連の属の一覧です。これらの属は、かつてはナシ亜科（リンゴ亜科）に分類されていました。

基底的な3属
カゲネキア属 (Kageneckia)
ヴォークリニア属 (Vauquelinia)
リンドレーア属 (Lindleya)
ナシ亜連
ザイフリボク属 (Amelanchier)
Malacomeles
Peraphyllum
アロニア属 (Aronia)
カナメモチ属 (Photinia)
Stranvaesia
カマツカ属 (Pourthiaea)
Docyniopsis
ビワ属 (Eriobotrya)
Eriolobus
Heteromeles
リンゴ属 (Malus)
ナシ属 (Pyrus)
シャリンバイ属 (Rhaphiolepis)
ナナカマド属 (Sorbus)
Cormus
アズキナシ属 (Aria)
Chamaemespilus
Torminalis
ボケ属 (Chaenomeles)
マルメロ属 (Cydonia)
Docynia
カリン属 (Pseudocydonia)
Chamaemeles
コトネアスター属 (Cotoneaster)
サンザシ属 (Crataegus)
Hesperomeles
Mespilus
テンノウメ属 (Osteomeles)
トキワサンザシ属 (Pyracantha)
* ディコトマンテス属 (Dichotomanthes)

これらの属は、私たちの身近な植物を多く含んでおり、ナシ亜科（リンゴ亜科）が、かつては多様な植物群を包括していたことを示しています。

まとめ

ナシ亜科（リンゴ亜科）は、分類学の研究が進むにつれて、その範囲と位置づけが大きく変化したグループです。現在はサクラ亜科の一部として扱われていますが、その歴史的な経緯を知ることは、植物の分類に対する理解を深める上で重要です。

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