ナフダトゥル・ウラマー

ナフダトゥル・ウラマー（NU）とは

ナフダトゥル・ウラマー（Nahdlatul Ulama、略称NU）は、インドネシアを代表するイスラム系組織の一つです。「ウラマーの復興」を意味するこの組織は、1926年に東部ジャワ州スラバヤで、ウラマーたちによって設立されました。NUは、宗教教育と地域社会の福祉向上を重視し、特に中部・東部ジャワの農村部に広がるイスラム寄宿学校（プサントレン）を拠点として活動を展開しています。保守的な性格を持ちながらも、インドネシア社会に深く根ざし、広範な影響力を持つ団体です。

歴史

成立と初期

NUは、オランダ領東インド時代に、イスラム指導者たちの連携によって誕生しました。当初は社会団体として、政治とは一定の距離を置いていましたが、1943年、日本軍政下で結成されたマシュミ（イスラム系諸団体を統合した組織）への参加を機に、政治に関与するようになります。しかし、戦後のマシュミ党内での主導権争いや、政府との対立から、1952年にマシュミを脱退。独自の道を歩み始めます。

スカルノ時代からスハルト時代へ

1955年の総選挙では、18.4%の得票率を獲得し、国内有数の勢力となりました。スカルノ政権下では、マシュミが非合法化される中で、NUは一定の距離を保ち、勢力を維持しました。スハルト政権下では、政党の簡素化を受け入れ、開発統一党（PPP）に参加しますが、1984年のシトゥボンド全国大会で政治活動からの撤退を決定。宗教教育と社会活動に専念することで、農村部での影響力を拡大しました。

スハルト政権崩壊後

1998年のスハルト政権崩壊後、NUの会員を中心に民族覚醒党（PKB）が設立され、再び政治の舞台へ。1999年の総選挙ではPKBが躍進し、NU総裁を務めたアブドゥルラフマン・ワヒドがインドネシア大統領に就任しました。しかし、NUとしては政治との距離を保つ方針が再確認され、社会活動への注力が続けられています。

NUの社会的性格

NUは、政治的な変遷の中で、その立ち位置を柔軟に変化させてきました。スカルノ政権下でのマシュミ脱退は、政権からの弾圧を回避し、スハルト政権下での政治活動からの撤退は、公的な政治システムの制約を受けずに活動する自由を得ることを意味しました。また、ワヒドら若手指導者層は、他宗教との寛容な関係を築き、人権や民主主義を重視する活動を推進。多くのNGOを設立し、農村開発などの社会活動に積極的に取り組みました。

まとめ

ナフダトゥル・ウラマーは、インドネシアのイスラム社会において、重要な役割を果たしてきた組織です。その歴史は、政治との関わり、社会との関わりの中で、柔軟に変化してきました。宗教教育、社会福祉、そして市民社会の建設に貢献してきたNUは、今後もインドネシア社会において、重要な存在であり続けるでしょう。

参考文献

永井重信 『インドネシア現代政治史』、勁草書房、1986年
倉沢愛子 『日本占領下のジャワ農村の変容』、草思社、1992年
加納啓良 『インドネシア繚乱』、文藝春秋、2000年
Ricklefs, M.C., A History of Modern Indonesia since C.1300 , 2nd edition, Standord, California, Stanford University Press, 1993
Eldridge, Philip J., Non-Government Organisations and Democratic Participation in Indonesia, Kuala Lumpur, Oxford University Press, 1995

関連項目

イスラーム
マシュミ
ムハマディヤ

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