ナムーナ

ナムーナ (Namouna)

『ナムーナ』は、フランスの作曲家エドゥアール・ラロが手がけた全二幕のバレエ作品です。1882年にパリ・オペラ座で初演されました。

作曲背景

本作は、1879年にオペラ座の総裁に就任した作曲家オーギュスト＝エドゥアール・ヴォーコルベイユからの依頼を受け、1881年11月から1882年2月にかけて作曲されました。およそ4ヶ月という短い期間での制作はラロに大きな負担をかけ、彼は過労のため健康を損ないます。特に第二幕のオーケストレーションにおいては、シャルル・グノーからの助言を得ながら、なんとか期日までにプロローグ付き二幕三場の全曲を完成させました。

初演とその反響

初演は1882年3月6日に、パリ・オペラ座で行われました。台本はシャルル・ニュイッテル、振付はリュシアン・プティパが担当し、リタ・サンガッリとルイ・メラントが主要な役柄を踊りました。

初演当時19歳だった若き作曲家クロード・ドビュッシーは、この作品の音楽を「色彩とリズムの最高傑作」と絶賛し、その感動のあまり劇場で騒ぎを起こして退場させられたという有名な逸話が残されています。しかし、バレエ作品自体としては残念ながら成功を収めることはできませんでした。主演ダンサーたちがラロの音楽を気に入らなかったという事情も影響し、わずか15回の公演で上演が打ち切られ、オペラ座のレパートリーから消え去ってしまいました。

リュシアン・プティパによるオリジナルの振付版は、現在では上演されることはありませんが、セルジュ・リファールが1943年に振付した『白の組曲（Suite en blanc）』には、このバレエ音楽の一部が抜粋されて使用されています。また、ピーター・ライトやジャック・カーターといった振付家によって再振付が試みられており、特にカーター版は日本の牧阿佐美バレヱ団のレパートリーとしても知られています。

登場人物

物語の主な登場人物は以下の通りです。

ナムーナ：魅惑的な女奴隷。賭けに敗れた主人アドリアーニからオッタヴィオの手に渡り、解放される。
オッタヴィオ：若き貴族。ナムーナを賭けで手に入れるが、彼女を奴隷の身から解放する鷹揚さを持つ。
アドリアーニ：裕福な航海業者。ナムーナの元々の持ち主で、賭けでの敗北からオッタヴィオに深い恨みを抱く。
ヘレナ：オッタヴィオの許婚。

あらすじ

原作はアルフレッド・ド・ミュッセによるカサノヴァ伝説に基づく詩で、舞台はギリシャ、イオニア海に浮かぶコルフ島です。

プロローグ
コルフ島の賭博場。アドリアーニはオッタヴィオとの賭けに連敗し、ついには自身の船と秘蔵の女奴隷ナムーナを賭けてしまいます。これも失ったアドリアーニは全財産を失いますが、オッタヴィオはナムーナを解放しただけで、賭けで得た他の財産は全てアドリアーニに返還します。この寛大な振る舞いにもかかわらず、アドリアーニはオッタヴィオに激しい恨みを募らせます。

第一幕
コルフ島の明るい広場。オッタヴィオが許婚のヘレナに窓辺でセレナードを捧げていると、そこにアドリアーニが現れ、賭けの恨みからオッタヴィオに決闘を挑みます。その時、顔をヴェールで覆った女性（後にナムーナと判明）が現れ、魅力的な踊りを披露して場の空気を変え、決闘を阻止します。ヘレナはオッタヴィオを屋敷に誘いますが、彼はアドリアーニに雇われた刺客に襲われます。刺客を退けたものの、自身の命が狙われていることを悟ったオッタヴィオは、再び姿を現したナムーナに導かれるまま、船で島を離れて旅立ちます。

第二幕
ナムーナは、奴隷商人アリが支配する島にオッタヴィオを匿います。ヴェールを脱いだナムーナのあまりの美しさに、オッタヴィオは強く魅かれます。しかし、そこへアドリアーニと部下たちが追って上陸してきます。ナムーナは彼らに酒を勧め、踊りで酔わせて島からの脱出を図りますが、アドリアーニはすぐに酔いから覚め、ナムーナとオッタヴィオを追い詰めます。絶体絶命のその時、ナムーナの従僕アンドリスクがアドリアーニを刺殺します。危機を脱したオッタヴィオとナムーナは、共に船に乗って新たな旅へと出ます。

組曲

ラロ自身は、バレエの初演後、全23曲の楽曲の中から3つの管弦楽組曲を編纂しました。これらの組曲、あるいはそれらを基にした抜粋版は、現在でもコンサートで演奏される機会が多く、エルネスト・アンセルメやジャン・マルティノンなどの著名な指揮者によって録音もされています。

組曲はそれぞれ以下の構成となっています。

第1組曲
前奏曲（Prélude）
セレナード（Sérénade）
主題と変奏（Themè varié）
市場の行列（Parade de foire）
異国の祭り（Fête foraine）

第2組曲
モロッコ舞曲（Danse marocaine）
マズルカ（Mazurka）
昼寝（La Sieste）
シンバルの踊り（Pas de Cymbales）
プレスト（Presto）

第3組曲
メヌエット（Menuet）
タンブーラン（Tambourin）
* 速いワルツ

もう一度検索