ジャン・マルティノン

ジャン・フランシスク＝エチエンヌ・マルティノン（Jean Francisque-Étienne Martinon）は、1910年1月10日にリヨンで生まれ、1976年3月1日に66歳でこの世を去った、フランスの著名な指揮者であり作曲家です。

音楽家としての歩み

マルティノンは、パリ音楽院でヴァイオリンを学び始め、その後、ヴァンサン・ダンディやアルベール・ルーセルに作曲を、シャルル・ミュンシュとロジェ・デゾルミエールに指揮法を師事しました。当初はヴァイオリン奏者として活動していましたが、後に指揮者へと転身しました。

指揮者としての活躍

指揮者としては、パリ音楽院管弦楽団、ボルドー交響楽団、コンセール・ラムルー、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、デュッセルドルフ交響楽団など、数々の主要オーケストラで首席指揮者を務めました。1958年からはフリーランスとして活動し、1963年にはシカゴ交響楽団の音楽監督に就任しましたが、オーケストラとの相性は必ずしも良好ではありませんでした。マルティノン自身、後年のインタビューで「アメリカでの苦渋に満ちた時代は思い出したくない」と語るほどでした。1968年からはフランス国立放送管弦楽団の音楽監督として、フランス指揮界の重鎮として活躍しました。

日本との関わり

マルティノンは、1953年と1963年にNHK交響楽団、1970年には日本フィルハーモニー交響楽団に客演し、計3回来日しました。特に、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の指揮は、岩城宏之の著作でも紹介されるなど、日本でも高い評価を得ています。

人物像と音楽性

マルティノンの指揮は、明晰さと力強さを兼ね備えており、ドビュッシーに代表されるフランス音楽を得意としていました。しかし、ドイツ系アルザス人の血を引いていたこともあり、ドイツ音楽の解釈においても、専門家から高い評価を受けていました。日本の評論家、宇野功芳も早くから「（フランス人としては）例外的にドイツの構成力を身につけた人」と評していました。しかし、シカゴ交響楽団では、同団が伝統的に得意としていたドイツ音楽の比重を下げたことが不評を招きました。特にマーラーとブルックナーを最初に拒否したことは、大きな議論を呼びました。

録音と作曲

マルティノンの録音は、フランス音楽の分野で特に高い評価を得ています。手兵のフランス国立管弦楽団を指揮したドビュッシーの管弦楽曲全集、サン＝サーンスの交響曲全集、ベルリオーズの「幻想交響曲」（オーケストラは前身のフランス国立放送管弦楽団）、ラヴェルの管弦楽曲全集（パリ管弦楽団）などが有名です。作曲家としても多くの作品を残しており、弦楽四重奏曲や交響曲第4番「至高」などは録音もされています。

マルティノンは、その卓越した音楽性と指揮技術で、20世紀の音楽界に大きな足跡を残しました。

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