ナーイ

ナーイは、アラブ世界に広く伝わる伝統的な管楽器です。ペルシア語では「ニー（نی）」、アラビア語では「ナーイ（ناي）」と呼ばれ、その名は一般的に楽器の素材である「葦」を意味すると解釈されています。

この楽器の最大の特徴は、葦の茎をそのまま利用した筒状のシンプルな管楽器であること、そして音を出すためのリードを使用しない「無簧（むこう）」である点にあります。奏者は管の上端に息を吹き込むことで管内の空気を振動させ、美しい音色を生み出します。リードを持たない構造ゆえに、奏者の息遣いや管をくわえる角度（アンブシュア）のわずかな違いが音色や音高に大きく影響し、非常に繊細で表情豊かな演奏が可能となります。指穴の数は一般的に5つまたは6つ、さらに裏側に1つあります。

ナーイは、アラブ古典音楽において非常に重要な位置を占めています。リュート属の弦楽器であるウード、そしてツィター属の撥弦楽器であるカーヌーンと並び、アラブ古典音楽を代表する主要な三つの楽器の一つに数えられています。その叙情的で瞑想的な響きは、即興演奏であるタクスィームや、叙情的なメロディーラインを奏でる上で不可欠な存在です。その使用地域は、エジプト、シリア、イラク、レバノンといったアラブ諸国に加え、トルコやイランなど、中東および北アフリカの広い範囲に及びます。

関連する楽器として、いくつかのものが挙げられます。

トルコのネイ（Ney）: トルコ古典音楽（オスマン音楽）で用いられるネイは、ナーイと構造や奏法において非常によく似ており、文化的交流の中で発展した兄弟のような楽器と言えます。
日本の尺八: 無簧の縦笛という基本的な構造において、日本の尺八と比較されることがしばしばあります。どちらもシンプルな管から深い表現力を持つ音色を生み出し、その音色や奏法には共通する哲学や精神性が宿っていると指摘されることがあります。

ナーイは単なる音楽演奏の道具としてだけでなく、深い精神性や宗教的な側面を持つ楽器として捉えられています。特に、イスラム神秘主義（スーフィズム）の実践者であるスーフィーたちの間で深く愛好されてきました。スーフィーたちはナーイの音色を、神との一体感を求める瞑想や儀式において重要な要素と考えました。

13世紀に現トルコのコンヤでメヴレヴィー教団を創設したことで知られる偉大な詩人、ジャラール・ウッディーン・ルーミーもまた、ナーイを深く愛した人物です。ルーミーの詩集「マスナヴィー」の冒頭は、ナーイが葦の茂み（故郷、すなわち神）から切り離されたことによる嘆きとして描かれており、ナーイの音色は魂の故郷への憧れや、神との離別による苦悩、そして再び結びつきたいという切望を象徴するものとされています。ナーイが持つこのような宗教的・精神的な深みは、日本の禅宗において精神修養のために尺八を吹いた虚無僧のあり方にも通じるものがあると言われます。

ただし、名称が似ているため混同されやすい楽器に、ルーマニアの民族楽器「ナイ」（Nai）があります。こちらは複数の長さの管を並べて作られたパンパイプ型の楽器であり、アラブのナーイとは構造、音色、そして歴史的背景も全く異なる楽器であることに注意が必要です。

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