ニギディウス・フィグルス

プブリウス・ニギディウス・フィグルス：政治家と学者の二面性

プブリウス・ニギディウス・フィグルス（紀元前98年頃 - 紀元前45年）は、共和政ローマ後期に活躍した政治家であり、同時に名高い学者でした。プラエトル（法務官）などの要職を歴任し、キケローら著名な人物と親交を深め、カティリナの陰謀にも関与したとされます。政治家としての経歴に加え、多大な学問的業績を残したことで知られています。

政治的キャリア

ニギディウスは紀元前63年までに元老院議員となり、紀元前60年にはアエディリス（財務官）を務めた可能性があります。紀元前58年にはプラエトルに就任。その後、紀元前52年から51年にはクイントゥス・ミヌキウス・テルムスの下でアシア属州のレガトゥス（副官）として従軍しました。

彼の政治的立場は、閥族派（オプティマテス）に属し、カエサルとポンペイウスのローマ内戦ではポンペイウス支持を表明しました。この内戦において、ニギディウスはカエサルとは対立する立場を取りました。カエサルは、敵対した学者ウァロには寛大な処遇を与えましたが、ニギディウスには恩赦を与えず、追放中に彼は亡くなりました。

学者としての業績

ニギディウスの学問的評価は、マルクス・テレンティウス・ウァロに次ぐ高さを誇り、同時代の学者たちから高い評価を得ていました。しかしながら、その著作は難解であったとされ、これは彼のピタゴラス主義的な神秘主義的傾向が原因だったとも考えられています。

彼の思想体系は、ストア派哲学とピタゴラス主義を融合したものでした。ヒエロニムスは彼を「ピタゴラス主義者にして魔道士」と呼び、中世からルネサンス期にかけては魔法使いや占い師、オカルティストといったイメージで描かれることもありました。

ニギディウスは膨大な著作を残しましたが、現存するのは断片的なもののみです。その著作は、数学、天文学、占星術、文法、語源学、修辞学、宗教、神学、占い、夢占いなど、多岐にわたっています。

特に、文法に関する著作『文法の論評』は、少なくとも29冊の本で引用されており、言語学、文法、古代研究に関する貴重な情報源となっています。彼は言葉の意味は人間が作り出したものではなく、自然に存在すると考え、綴字法にも細心の注意を払っていました。また、語源学においては、ローマ語の語源を探求し、独自の解釈を提示しました。

天文学や占星術に関する著作では、ギリシア式と非ギリシア式（バルバルス式）の両方の方法を取り入れ、エジプトの占星術にも触れていると推測されます。彼の占星術はエトルリアの伝統に基づいており、マルティアヌス・カペッラにも影響を与えた可能性があります。

彼の著作は、文法や古代研究だけでなく、神学、占い、夢占いなど、多様な分野に及んでおり、その多才ぶりを物語っています。一方で、その難解さゆえに現代の研究においては、彼の著作の断片を理解する上で困難さが伴います。

後世への影響

ニギディウスの著作は、後世の作家にも影響を与えました。マルクス・アンナエウス・ルカヌスの叙事詩『ローマ内戦』では、ニギディウスが予言を行う場面が登場します。また、ヨハネス・ケプラーも彼の著作に言及しており、天文学における彼の業績は高く評価されていました。

ニギディウスの生涯や著作に関する情報は、キケローの書簡、ルカヌスの『ローマ内戦』、アウルス・ゲッリウス、大プリニウス、ノニウス・マルケッルスらの著作などから得られています。彼の著作の断片は、A.シュヴォボダによって編纂され、研究の基礎資料となっています。

ニギディウス・フィグルスは、政治家としてだけでなく、学者、思想家としても重要な役割を果たした人物です。彼の残した断片的な著作は、古代ローマの思想、文化、社会を理解する上で貴重な資料であり、現代においても研究が続けられています。彼の神秘主義的な側面は、後世の想像力を刺激し続け、多面的な魅力を持つ人物として記憶されています。

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