ニコライ・ダニレフスキー

ニコライ・ヤーコヴレヴィチ・ダニレフスキー（1822年11月28日 - 1885年11月7日）は、19世紀ロシアを代表する自然科学者であり、歴史学者です。スラブ派の理論家としても重要な人物として位置づけられています。

生涯

ダニレフスキーは、オリョール県オベレツ村（現在のイズマルコフスキー区）で、貴族の家庭に生まれました。ツァールスコエ・セロー学院で教育を受けた後、陸軍省に勤務しますが、その仕事に満足できず、サンクトペテルブルク大学で物理学と数学を学びました。修士試験に合格し、ヨーロッパロシア圏と黒海沿岸の花に関する論文を準備していたところ、フランス社会主義の研究を行っていたペトラシェフスキーのサークルに所属していた疑いで1849年に逮捕されます。この事件では、活動的なメンバーの何人かは死刑を宣告されましたが、ダニレフスキーはペトロパヴロフスク要塞で100日間投獄された後、ヴォログダに流刑となり、警察の監視下に置かれました。

1852年、彼はカール・エルンスト・フォン・ベーアの協力者として農林水産省に配属され、4年間、ヴォルガ川流域とカスピ海の水産資源の調査に従事しました。その後20年間は、白海、黒海、アゾフ海、カスピ海、そして北極海の調査隊に関わり、自然科学者としての経歴を積みました。行政官としては、1872年から1879年まで漁場とアザラシ猟の管理、クリミアにおける流水利用規則を作成する委員会の長を務めました。彼の気候学、地質学、地理学、民族学への貢献は高く評価され、ロシア地理学協会から金メダルを授与されています。

理論

ダニレフスキーの政治的見解は1860年代に大きく変化し、著書『ロシアとヨーロッパ』はスラブ派の重要な文献となりました。彼は、ヨーロッパが暴力的にスラヴ民族を支配し、その文化を破壊しようとしていると主張し、ロシアが主導するスラヴ文明の台頭を予言しました。ダニレフスキーは、ドイツ観念論やヘーゲルの影響を受けず、自然科学的な経験に基づいて独自のロシア観を展開した点で、他のスラブ派の論客とは異なっています。

ダニレフスキーの歴史観は、ジョルジュ・キュヴィエの生物分類に大きな影響を受けています。彼は「文化的歴史類型」は不変であると考え、人間性や普遍的な進歩といった概念を否定しました。彼は、人類は単一の運命を持つものではなく、文化類型は互いに排他的であると主張しました。この考え方は、後のオスヴァルト・シュペングラーの思想と共通する部分があります。ダニレフスキーにとって重要なのは、世界におけるロシアの使命ではなく、ロシアを独特な文化史的類型として形成していくことでした。哲学者のソロヴィヨフは、ダニレフスキーに見られるロシア国民信仰を批判し、その要素がドイツの哲学者リッケルトからの借り物であることを指摘しました。

ダニレフスキーの思想は、コンスタンチン・レオンチェフに受け継がれ、トルストイやドストエフスキーにも影響を与えた一方で、歴史学者パーヴェル・ミリュコーフやニコライ・ミハイロフスキーからは強く反対されました。

著書

"О движении народонаселения в России." (1851年)
"Климат Вологодской губернии."（1853年）
『ダーウィニズム　Дарвинизм. Критическое исследование』（1889年）
『ロシアとヨーロッパ　Россия и Европа. Взгляд на культурные и политические отношения Славянского мира к Германо-Романскому』（1895年）
* 『政治経済学論集　Сборник политических и экономических статей』（1890年)

ニコライ・ダニレフスキーは、自然科学と歴史学の両分野で重要な貢献をしました。彼の思想は、ロシアの文化や政治、歴史観に深い影響を与え、現代においても研究対象となっています。

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