ニコラス・ベーコン

サー・ニコラス・ベーコンの生涯

サー・ニコラス・ベーコン（Sir Nicholas Bacon, 1510年12月28日 - 1579年2月20日）は、16世紀イングランドにおいて、卓越した政治家として活躍しました。彼はエリザベス1世の治世において、大法官、庶民院議長、そして国璽尚書という要職を歴任し、その手腕を発揮しました。また、哲学者として名高いフランシス・ベーコンの父としても知られています。

ベーコンは、ケントのチズルハーストで、ロバート・ベーコンとエレノア・ケージの次男として生まれました。ケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・カレッジを卒業後、パリでの滞在を経て、グレイ法曹院で弁護士資格を取得しました。トマス・クロムウェルの目に留まり、増収裁判所に勤務し、修道院解散に伴う財産管理に携わりました。1540年には増収裁判所の検事となり、1542年には庶民院議員に選出されました。

修道院解散後、ヘンリー8世から広大な領地を与えられ、その中にはゴランベリーも含まれていました。この地には後に息子のフランシスが住むこととなるオールド・ゴランベリー・ハウスを建てました。1545年にはダートマス選挙区から選出され、1547年には後見裁判所の検事、1552年にはグレイ法曹院の出納官に昇進しました。ベーコンはプロテスタントであったため、メアリー1世のカトリック政権下では昇進を失いましたが、メアリー1世は彼の地位を黙認しました。この時期の経験は、彼の性格形成に影響を与えたとされています。

1558年にエリザベス1世が即位すると、ベーコンは義兄であるウィリアム・セシルの影響もあり、国璽尚書と枢密顧問官に任命され、大法官代理、庶民院議長も兼任し、議会運営に尽力しました。その功績から騎士にも叙任されています。

ベーコンは財政の知識を生かし、財政・社会問題に取り組みました。1561年には貨幣改鋳を終結させ、1563年には職人法の立案・執行に貢献しました。議会では女王の意向を伝え、宗教改革後のイングランド国教会体制を維持する役割も担いました。1570年には星室庁で宗教的寛容を訴え、1572年にはスコットランド女王メアリーに関する問題を打ち切るなど、重要な政治的役割を果たしました。

ベーコンは友人マシュー・パーカーを支援し、カンタベリー大司教の地位を安定させることに貢献しました。また、スコットランド女王メアリーを警戒し、彼女がイングランドの王位継承権を持つことには強く反対しました。フランスとの同盟にも反対し、カトリック勢力に対して強い警戒心を持っていました。彼はイングランド国教会の信者として、教会の問題にも深く関心を持ち、より良い教義と規律の確立を主張しました。

晩年には、後妻との息子であるアンソニーとフランシスの教育に力を注ぎ、ケンブリッジ大学やグレイ法曹院へと進学させました。1577年には女王をゴランベリーに迎え、歓待しました。1579年、大雪の日に窓を開けたままうたた寝をして肺炎を患い、68歳でその生涯を閉じ、セント・ポール大聖堂に埋葬されました。

ベーコンは、雄弁な話し手であり、教養ある法律家、そして寛大な人物として知られていました。教育に対する関心は、レッドグレイヴ文学校などの設立に繋がっています。

家族

ベーコンは二度結婚しており、最初の妻との間に3男3女をもうけました。長男ニコラスはサフォーク議会の議員となり、準男爵の称号を受けました。二度目の妻アン・クックとの間には、アンソニーと、後に哲学者として名を成すフランシスをもうけました。

脚注

Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Bacon, Sir Nicholas" Encyclopædia Britannica (英語) (11th ed.). Cambridge University Press.
Kimber, Edward (1771). The Baronetage of England: containing a genealogical and historical account of all the English Baronets now existing, with their descents, marriages, and memorable actions both in war and peace. London: G. Woodfall. vol. 1, pp. 2–4

参考文献

塚田富治『イギリス思想叢書2 ベイコン』研究社出版、1996年。
石井美樹子『エリザベス 華麗なる孤独』中央公論新社、2009年。
* 石井栄一『ベーコン 人と思想43』清水書院、1977年（新装版2016年）。

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