ニッケルオデオン (映画館)

ニッケルオデオン：20世紀初頭のアメリカを彩った大衆娯楽

ニッケルオデオンとは、20世紀初頭にアメリカ合衆国で隆盛を誇った小規模な映画館のことです。その名前は、入場料が5セント（ニッケル）だったことと、ギリシャ語で屋根付きの劇場を意味する「オデオン」に由来します。当時の人々にとって、ニッケルオデオンは手軽に楽しめる大衆娯楽として、生活に深く浸透していました。

歴史

ニッケルオデオンのルーツは、貸店舗を簡易的に改装した「ストアフロント劇場」にあります。これらの劇場は、ニッケルオデオン登場以前から存在し、夜間限定で興行を行っていました。1905年6月、ハリー・ディヴィスとジョン・P・ハリスは、ペンシルベニア州ピッツバーグで「ニッケルオデオン」という名前の劇場をオープンしました。従来のストアフロント劇場とは異なり、一日中興行を行うスタイルが受け、たちまち大成功を収めました。この成功を受け、5セントで映画を上映する映画館というアイデアは、瞬く間に各地の起業家によって模倣されました。

ルイス・B・マイヤーもその一人で、1907年にマサチューセッツ州ハーバーヒルで「オーフィウム・シアター」を開館しました。この劇場は、「伴奏付きで、マイルズ・ブラザーズ映画を専門に上映する」という触れ込みで、観客を魅了しました。ニッケルオデオンは1915年頃まで人気を博しましたが、都市の発達や劇場の淘汰、そしてより大規模で快適な映画館の登場により、次第に衰退していきました。また、長編映画の登場も、ニッケルオデオンの衰退に拍車をかけました。新しい映画館の出現に伴い、入場料は5セントから10セントへと値上げされ、ニッケルオデオンの時代は終わりを迎えました。

設備

劇場構造

ニッケルオデオンの起業家たちは、潤沢な資金を持っていなかったため、300名程度まで収容可能な小規模な劇場を運営していました。また、貸店舗を改造していたため、大規模な劇場を建設することは物理的に困難でした。平均的な劇場のサイズは、横7.5メートル、奥行き30メートル程度で、座席は簡素な木製でした。初期の劇場では、映写室も設けられていませんでした。

上映設備

スクリーンは200インチ程度と、現在のホームシアターよりもやや大きい程度でした。後年の映画館では、2台の映写機を使用して複数のフィルムを切り替えながら上映するのが一般的でしたが、ニッケルオデオンでは、1つの劇場に1台の映写機しかありませんでした。この映写機は幻灯機をベースにしたもので、手回しで操作されることがほとんどでした。そのため、複数フィルムの連続上映は不可能で、フィルム交換中は幻灯機によるスライド上映で時間をつないでいました。また、当時はサイレント映画であったため、スピーカーなどは存在せず、ピアノ伴奏や観客の合唱がその代わりを務めていました。

上映内容

基本的な上映パターン

ニッケルオデオンは、ヴォードヴィル演芸場と競合していたため、ヴォードヴィルで人気があった音楽演奏や挿絵スライド上映を取り入れていました。上映内容は、以下のパターンを3回繰り返すことが一般的でした。

1. 鑑賞マナーを示したスライド上映
2. 映画上映（15〜20分程度）
3. 挿絵スライド付きの音楽演奏

上映作品の例

ニッケルオデオンでは、様々なジャンルの短編映画が上映されていました。風景、記録映画、歌手やダンサーのパフォーマンス、コメディ、メロドラマ、問題劇、スポーツイベントなど、バラエティ豊かな内容でした。例えば、1897年のジェームス・J・コーベット対ボブ・フィッシモンズのボクシングヘビー級タイトル戦や、1899年のジェームス・J・ジェフリーズ対トム・シャーキーの試合などが人気を博しました。マイルズ・ブラザーズが配給した映画作品は、その多様性をよく表しています。

ニッケルオデオンは、当時のアメリカの人々にとって、手軽に楽しめる娯楽の中心でした。その簡素な設備や上映スタイルは、現代の映画館とは大きく異なりますが、映画文化の発展に重要な役割を果たしたことは間違いありません。

脚注

参考文献

加藤幹郎『映画館と観客の文化史』中央公論新社、2006年。ISBN 4-12-101854-0。

外部リンク

The Nickelodeons（英語） - ジョゼフ・メディル・パターソン著 1907年11月23日発行サタデー・イブニング・ポストより
* マイルズ・ブラザーズ配給のドラマ作品（英語） - アメリカ映画協会長編映画カタログより

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