ネア・モニ修道院

ネア・モニ修道院は、ギリシャのヒオス島に位置する正教会の修道院で、11世紀に創建されました。その建築様式は中期ビザンティン建築を代表するものとされ、特に聖堂内に残る11世紀のモザイクは、当時の姿を今に伝える貴重な遺産です。1990年には、ダフニ修道院、オシオス・ルカス修道院と共にユネスコの世界遺産に登録されました。

歴史

ネア・モニ修道院の創建には、修道士ニケタスとヨアンニスが深く関わっています。彼らは、1035年から1042年にかけて、ヒオス島に近いミティリニ島に追放されていた貴族コンスタンティノス・モノマコスが皇帝になることを予言したとされています。予言は的中し、1042年にコンスタンティノス9世として即位した彼は、修道院に税金の免除や建築物の贈与を行いました。しかし、修道院自体はそれ以前から存在しており、ニケタス、ヨアンニス、ヨシフの3人が聖母のイコンを発見し、それを祀るために生神女聖堂を建立したのが始まりであるとされています。

コンスタンティノス9世は、修道院の建設に際し、コンスタンティノープルの建築家を派遣しました。中央聖堂は、恐らく1043年に着工し、1055年から1056年の間に完成したと考えられています。ニケタスとヨアンニスは、皇帝から首都の聖堂の形式を真似てもよいという許可を得て、「聖使徒聖堂の小さい聖堂」をモデルにしたと伝えられています。これは、聖使徒聖堂に付属するコンスタンティヌスの霊廟であったと考えられていますが、完全に模倣したのかどうかは定かではありません。

1822年、ギリシャ独立戦争中に修道院は火災に見舞われ、中央聖堂のドームにあったモザイクが失われました。当時、ヒオス島は独立派による虐殺が行われるほどの混乱状態にありましたが、修道院は完全に消失することは免れました。しかし、1882年の地震でドームが崩落し、後に再建されましたが、元の姿とは異なるものになってしまいました。

構造

ネア・モニ修道院の中央聖堂は、単純形スクィンチ式と呼ばれる形式の教会堂です。ドームを支えるためにスクィンチを採用している点は、オシオス・ルカス修道院の中央聖堂と共通していますが、その構造には違いが見られます。オシオス・ルカスは高いアーチで開放的なつくりであるのに対し、ネア・モニの中央聖堂はアプスへ続くアーチが低く、中央ホールのドームをより強調したつくりになっています。また、オシオス・ルカスのスクィンチが4つであるのに対し、ネア・モニではアーチ部分もスクィンチを形成するため、8つのスクィンチがドームを支えています。

19世紀に再建されたドームは12角形ですが、元々はスクィンチによって形成された八角形の上に、九角形のパンプキン・ドームが載っていました。この九角形は、天使の9位階を示すために形成されたと考えられています。興味深いことに、ドームのモザイクの画題は、完成後に決定されたのではなく、先にモザイクの画題が決まり、それを満足させるようにドームの形状が変形されたそうです。

装飾

ネア・モニの中央聖堂は、その内壁全体にモザイク装飾が施されています。内ナルテクスには、小ドームに聖人のメダイヨンに取り巻かれた『聖母』、そして『エルサレム入城』、『聖霊降臨』、『ラザロの蘇生』、『キリストの昇天』、『洗足』、『ゲッセマネの祈り』、『ユダの裏切り』などが描かれています。ただし、内陣入り口部分のモザイクは、大部分が失われています。

中央ドームを支えるスクィンチには、キリストの生涯を題材としたモザイクが施されています。『生神女福音』、『降誕』、『迎接』、『洗礼』、『変容』、『磔刑』、『十字架降架』、『復活』が描かれていましたが、現在は『降誕』のモザイクは現存していません。『復活』の場面に描かれたソロモン王は、髭を生やした人物として表現されており、これはビザンティン美術では珍しい特徴です。これは、修道院の寄進者であるコンスタンティノス・モノマコスをモデルにしたものと考えられています。スクィンチとドームの間には、四福音記者とセラフィムが配置されています。

アプスには、『生神女』が描かれていますが、座像ではなく立像として描かれているのは珍しいです。これは、修道院設立時に発見されたとされるイコンと同じ図像であったと伝えられています。その両脇には、『大天使ミカエル』と『大天使ガブリエル』の上半身像が描かれています。

参考文献

シリル・マンゴー著・飯田喜四郎訳『ビザンティン建築』（本の友社） ISBN 4894392739
ジョン・ラウデン著・益田朋幸訳『初期キリス教美術・ビザンティン美術』（岩波書店） ISBN 978-4-00-008923-4
益田朋幸著『世界歴史の旅　ビザンティン』（山川出版社）ISBN 9784634633100

ネア・モニ修道院

歴史

構造

装飾

参考文献

関連項目