ネイザン・イースト (アルバム)

ネイザン・イーストは、アメリカ合衆国を代表するベーシストの一人であり、数えきれないほどの有名アーティストのレコーディングやツアーでその手腕を発揮してきた。多くの音楽ファンにその名前が知られる彼は、満を持して2014年にキャリア初となるソロ名義でのスタジオ・アルバム、『ネイザン・イースト』をリリースした。この作品は、特に日本で世界に先駆けて発売された点が特筆される。ベーシストとしての卓越した技術はもちろん、本作では一部の楽曲で自らリード・ボーカルも務め、新たな一面を見せている。

背景と制作

アルバムの制作プロセスには、イーストがこれまでに培ってきた幅広い音楽的な繋がりと人脈が色濃く反映されている。収録曲は非常に多様で、ジャズ、フュージョン、R&B、ポップス、ゴスペルといった様々なジャンルを横断する。スティーヴィー・ワンダーの「サー・デューク」や「オーヴァージョイド」といった誰もが知るカヴァー曲も含まれており、「オーヴァージョイド」の演奏には、原曲のアーティストであるスティーヴィー・ワンダー本人がハーモニカ奏者として参加するという豪華な共演が実現した。また、長年にわたりイーストを自身のツアーやレコーディングで度々起用してきた盟友、エリック・クラプトンも参加している。クラプトンがかつて在籍したバンド、ブラインド・フェイスの楽曲「キャント・ファインド・マイ・ウェイ・ホーム」のカヴァーで、その存在感のあるギタープレイを披露している。アルバムリリース直前の2014年2月にイーストがクラプトンの日本ツアーに帯同していたこともあり、両者の親密な関係性がうかがえる。

家族との共演も本作の温かい要素の一つだ。ビートルズの不朽の名曲「イエスタデイ」は、イーストの息子であるノア・イーストのピアノとのデュオ編成で演奏され、感動的な親子のコラボレーションとなった。さらに、弟のマルセル・イーストとの共作による「101イーストバウンド」は、イーストがメンバーとして活動する人気フュージョンバンド、フォープレイが過去に発表した楽曲を、本作のためにリメイクしたバージョンである。

オリジナル楽曲にも意欲的な取り組みが見られる。マイケル・トンプソンと共作したインストゥルメンタル曲「ダフト・ファンク」は、イースト自身もベーシストとして参加し世界的な大ヒットとなったダフト・パンクの楽曲「ゲット・ラッキー」が持つフィーリングを意識して制作されたという。また、「マディーバ」と題された楽曲は、南アフリカのアパルトヘイト撤廃に尽力し、ノーベル平和賞を受賞した指導者ネルソン・マンデラに敬意を表して捧げられている。

日本人アーティスト、小田和正とのコラボレーションも本作の大きな話題の一つであった。小田和正がこのアルバムのために特別に書き下ろした新曲に、ネイザン・イーストが英語詞をつけた「ファイナリー・ホーム」が収録されている。イーストは2014年11月11日に日本で開催された自身の公演で、この曲を演奏する際に小田和正をゲストとしてステージに迎え、観客を沸かせた。

参加ミュージシャンは、文字通り音楽業界のトッププレイヤーたちが集結している。前述のスペシャルゲスト陣に加え、マイケル・マクドナルド、サラ・バレリスといった著名なボーカリスト、ジェフ・バブコ、グレッグ・フィリンゲインズ、デヴィッド・ペイチ、ボブ・ジェームス（フォープレイの盟友でもある）といった名だたるキーボード奏者、マイケル・トンプソン、レイ・パーカー・ジュニア、チャック・ローブ（こちらもフォープレイの盟友）らギタリスト、そしてリッキー・ローソン、ヴィニー・カリウタといった屈指のドラマーたちが名を連ねる。加えて、パーカッション、ホーンセクション、ストリングス、さらにはオーケストラまで参加しており、そのサウンドは豊かで重層的だ。イースト自身が明かすところによれば、旧知の仲であるデヴィッド・ペイチを含む一部のミュージシャンは、当初のレコーディング計画には含まれていなかったものの、自然な流れで参加することになったというエピソードもある。なお、本作の多くの楽曲でドラムスを担当したリッキー・ローソンは、アルバムリリース直前の2013年12月に惜しまれつつも逝去している。

評価と反響

『ネイザン・イースト』は、その音楽的な多様性と参加アーティストの豪華さ、そして高い演奏レベルから、批評家やリスナーから広く高く評価された。第57回グラミー賞では、最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム賞にノミネートされるという栄誉を獲得した。

音楽評論家のアンディ・ケルマンはオールミュージックのレビューにおいて、5点満点中3.5点を与え、「1970年代後半のセッションワークを始めた若き日から、現代的なジャズグループであるフォープレイでの活動に至るまで、このミュージシャンのキャリアを熱心に追い続けてきたリスナーへの誠意に満ち溢れた作品だ」と評した。また、『CDジャーナル』は、本作の多様な音楽性を捉え、「ジャズ、ゴスペル、フュージョンなどを絶妙にミクスチャー」していると高く評価している。

商業的にも成功を収めた。母国アメリカでは、音楽チャートの最高峰であるBillboard 200で193位にランクインしたほか、『ビルボード』のジャズ・アルバム・チャートでは2位、新進アーティストのチャートであるトップ・ヒートシーカーズでは7位、インディペンデント・アルバム・チャートでは41位と、各ジャンルチャートで上位に食い込んだ。特に先行発売された日本では、オリコンチャートで最高49位に達し、発売から10週間にわたり週間トップ300圏内を維持するなど、安定した人気を示した。

収録曲 (日本盤CD)

日本盤CDの収録曲は以下の全15曲である。

1. 101イーストバウンド
2. サー・デューク
3. レター・フロム・ホーム
4. ムーンダンス
5. アイ・キャン・レット・ゴー・ナウ
6. ダフト・ファンク
7. セヴンネイト
8. キャント・ファインド・マイ・ウェイ・ホーム
9. ムードスウィング
10. オーヴァージョイド
11. イエスタデイ
12. ファイナリー・ホーム
13. マディーバ
14. アメリカ・ザ・ビューティフル
15. フォー・オン・シックス

アメリカ盤およびヨーロッパ盤では、収録曲や曲順が日本盤と一部異なっている。

主な参加ミュージシャン

ネイザン・イースト (ベース、ボーカル)
スティーヴィー・ワンダー (ハーモニカ)
エリック・クラプトン (ギター)
小田和正 (ボーカル)
マイケル・マクドナルド (ボーカル)
サラ・バレリス (ボーカル)
ノア・イースト (ピアノ)
ジェフ・バブコ (キーボード)
グレッグ・フィリンゲインズ (キーボード)
デヴィッド・ペイチ (キーボード)
ボブ・ジェームス (ピアノ)
マイケル・トンプソン (ギター)
チャック・ローブ (ギター)
リッキー・ローソン (ドラムス)
ヴィニー・カリウタ (ドラムス)

*上記は本作に参加した数多くの著名ミュージシャンの一部である。

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