ノコギリガザミ

ノコギリガザミ（鋸蝤蛑）

ノコギリガザミは、十脚目に属するワタリガニ科の大型カニであり、その名は甲の縁に鋸のような突起が存在することに由来しています。このカニは、日本南部を含むインド太平洋の熱帯・亜熱帯域に生息し、特に重要な食用種として知られています。

名称と分類

日本では、ノコギリガザミは地域によって異なる名前で呼ばれます。たとえば、胴満蟹（ドウマンガニ）や甲丸、エガニなどの名前があり、英語ではマッドクラブやマングローブクラブと呼ばれています。ノコギリガザミ属には、特にアミメノコギリガザミ（S. serrata）、アカテノコギリガザミ（S. olivacea）、トゲノコギリガザミ（S. paramamosain）の3種が存在しますが、これらの違いは小さく、長い間同じ種として扱われてきました。

形態的特徴

ノコギリガザミは、甲長130ミリ、甲幅200ミリといった大きさに達するカニで、甲は葉のような形をしており、厚みがあります。成体の甲には、額に6つと両側に各9つの突起があります。また、体色は背面が褐色、腹面が黄白色から明褐色をしており、平滑な表面で鈍い光沢が特徴的です。

鋏脚は強力で左右でサイズが異なり、小さい鋏で餌を掴み、大きい鋏で殻を砕く役割を果たします。特に、大きい鋏の噛み合わせには臼歯に似た丸い歯が並んでいます。この鋏脚の力は非常に強力で、時には乾電池を潰すほどです。また、ノコギリガザミの後ろの歩脚は平たい遊泳脚に変化しています。

生態

このカニはインド太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布し、特に日本では房総半島以南の地域で見られます。波の静かな内湾や河口の汽水域に生息し、マングローブの根元や干潟に巣穴を作ります。昼間は巣穴に潜み、夜間に活発に動き回り、潮の満ち引きに合わせて餌を探します。

縄張り意識が非常に強く、特にオス同士が対峙すると喧嘩に発展します。喧嘩の際に失った脚や鋏は、数回の脱皮を経て再生する能力を持っています。

利用と料理

ノコギリガザミは、その美味しさと栄養価から非常に重要な食材とされており、日本やアジア各国では漁獲され続けています。日本では、浜名湖や土佐湾、南西諸島などで刺し網や籠を使った漁が行われており、夜間の採集も行われています。その強い鋏を持つため扱いには注意が必要で、通常は鋏を固定して流通します。

味わいは深く、数多くの料理に利用されます。日本では茹でるだけでなく、味噌汁や天ぷらにも使われます。アジアの国々では、香辛料や調味料で炒めたり蒸したりする調理法が一般的で、四川料理のカニ料理などが有名です。

文化的な位置付け

ノコギリガザミは、地域の民謡などにも登場し、文化的な存在感も持っています。たとえば、石垣島の民謡においてもこのカニが歌われ、地域の文化と密接に関連しています。

ノコギリガザミは、自然界における重要な生態系の一部であり、同時に人々の食文化にも深く根付いています。その存在は自然と人間社会の結びつきを象徴しています。

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