ハウサ諸王国

ハウサ諸王国

ハウサ諸王国は、13世紀頃から19世紀初頭にかけて、現在のアフリカ大陸、特にナイジェリア北部からニジェール南部にあたるハウサランドと呼ばれる広大なサバンナ地帯に存在した、ハウサ人によって築かれた都市国家群の総称です。

歴史的背景と建国

14世紀後半、西アフリカのマンデ系商人たちの活動を通してイスラームがこの地域に伝えられました。これを契機として、ハウサ諸王国は城壁に囲まれた都市を核とする独自の国家形態を形成していったとされています。19世紀に入ると、フルベ人のイスラーム改革運動によって勃興したソコト帝国の支配下に入り、その歴史に終止符が打たれました。

ハウサ人の間には、その起源に関する神話が語り伝えられています。19世紀に編纂された歴史書『カノ年代記』によれば、遠くバグダードからやってきた王子バヤジダが西方へと旅をし、カネム・ボルヌ帝国を経て、ダウラ王国の女王ダウラマと結婚したとされます。この二人の子孫によって、主要な7つの王国、通称「ハウサ・バグワイ（Hausa Bakwai）」が建国されたと伝えられています。これには、ダウラ、カノ、カツィナ、ザリア、ゴビール、ラノ、ビラムが含まれます。また、バヤジダが側室との間にもうけた子孫からは、ザムファラ、ケッビ首長国、ヤーウリー首長国、グワウリー、クワララファ（ジュクン）、ヌペ王国、イロリン首長国といった、通称「バンザ・バグワイ」と呼ばれる他の7つの王国が生まれたとされています。ヌペ王国とイロリン首長国は、それぞれヌペ人やヨルバ人といった異民族の国家でしたが、ハウサ人との血縁関係が近いとみなされ、広義のハウサ諸王国として扱われることがあります。

繁栄と外部勢力との関係

ハウサ諸王国は、西にソンガイ帝国、東にカネム・ボルヌ帝国という二大強国に挟まれながらも、巧みな外交戦略を展開しつつ、サハラ砂漠を越える長距離交易路を掌握し、繁栄を享受しました。彼らは強大な騎馬隊を基盤に、これら周辺勢力と対抗しました。14世紀にはザリアが、15世紀にはケッビが力をつけ、特にケッビの王は16世紀初頭にはハウサ諸王国の盟主として「カンタ」の称号を名乗るまでになりました。しかし、17世紀初頭にゴビール王国の反乱によってその覇権は崩壊し、再び各都市国家が独立した状態に戻りました。

16世紀半ばには、ソンガイ帝国のアスキア・ムハンマド大王による侵攻を受けましたが、1592年にソンガイが滅亡すると、西からの圧迫が減少し、ハウサ諸王国はその勢力を大きく広げました。

滅亡とその後

19世紀初頭、ゴビール出身のフルベ人聖職者ウスマン・ダン・フォディオは、当時のハウサ諸王国の支配体制を腐敗しているとして非難し、イスラーム復興を目指す聖戦（ジハード）を宣言しました。これによって勃発したフラニ戦争（1804年-1808年）の結果、1809年にハウサ諸王国はウスマンが建国したソコト帝国に征服され、フルベ人の支配を受けることになりました。

ソコト帝国の統治は二重構造となり、かつての王国は首長国へと再編され、その首長はフルベ人の指導者（シャイフ）によって任命される形式となりました。多くのハウサ諸王国はソコト帝国の傘下に入りましたが、カツィナやゴビール、ケッビなど一部の王国は、ソコトの支配が及ばない地域へと逃れ、そこで再興を果たしてソコト帝国との対立を続けた勢力も存在しました。

文化と経済

ハウサ諸王国は、強固な城壁を持つ都市を中心に発展し、その周囲には綿やソルガムといった作物の畑が広がっていました。ソンガイ帝国の滅亡後、サハラ交易の主要ルートがハウサランドを経由するようになったことで、中継貿易により莫大な富が集積されました。11世紀頃にはすでにイスラームを受け入れており、多くのモスクが建立されるなど、イスラーム文化が栄えました。

ハウサ諸王国の歴史を知る上で極めて重要な史料として、19世紀にアラビア語で記された『カノ年代記』があります。これはハウサ諸王国の中でも特に有力であったカノ王国の歴史をまとめたもので、フラニ戦争によって多くの古記録が失われた後世にとって、貴重な情報源となっています。

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