ハウチワカエデ

ハウチワカエデ（羽団扇楓）

ハウチワカエデは、ムクロジ科カエデ属に分類される落葉性の小高木または高木です。学名を Acer japonicum といい、日本の固有種であり、その美しい紅[[葉]]から古くより観賞用として親しまれてきました。

名称の由来

和名の「ハウチワカエデ」は、その大きな葉が天狗の持つ羽団扇に似ていることに由来します。また、別名の「メイゲツカエデ（名月楓）」は、秋の名月の光に照らされて紅[[葉]]が美しく映える様子から名付けられました。その他にも、アカバナハウチワカエデ、ネバリハウチワカエデ、オオメイゲツ、シナノハウチワカエデなど、様々な別名で呼ばれています。

英名は「full moon maple（フルムーン・メープル）」といい、これはメイゲツカエデを直訳したものです。中国では「羽扇槭（羽扇楓）」と表記されます。

分布と生育環境

ハウチワカエデは、日本国内では北海道から本州の中部以北、四国に分布し、国外では朝鮮半島にも見られます。山地の中腹から尾根にかけて、低山帯から亜高山帯下部の谷間などに自生し、特にブナ帯のような寒冷な環境を好みます。日当たりの良い山の斜面でよく見られます。また、観賞用として庭園や公園にも植栽されています。

特徴

ハウチワカエデは、樹高5〜10m、高いものでは15mに達する落葉広葉樹です。樹皮は青灰色や灰白色、灰褐色で、若木ではなめらかですが、成木になると浅く裂け目ができます。今年枝は赤褐色または紅紫色で、花期には白い毛がありますが、後に落ちて無毛になります。

葉は対生し、掌状に9〜11浅裂・中裂します。葉の切れ込みは葉身の5分の2から3分の1程度で、多くは9裂ですが、7裂や13裂することもあります。裂片の先端は鋭く尖り、基部は心形、葉縁には重鋸歯があります。花期には両面に白い毛がありますが、成葉になると裏面の脈上や脈腋にのみ毛が残ります。葉柄は葉身の4分の1から2分の1の長さで、白い毛が密生しています。

秋になると、葉は先から黄色、橙色、赤色へと変化し、美しい紅[[葉]]を見せます。葉が重なり合った部分は、下の葉が上の葉の形に黄色く染まることもあります。葉脈に沿って複数色が混ざり合う紅[[葉]]の仕方は、ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、オオイタヤメイゲツに共通の特徴です。落葉した葉は、地上で茶色く縮れて丸まります。

花期は4〜5月で、本年枝の先に若葉と同時に散房花序を垂らし、暗紅紫色の花を咲かせます。花は下向きに6〜14個つき、雄花と両性花が混生します。萼片は暗紅色、花弁は淡黄色で、雄蕊は8個あります。両性花の子房には黄白色の軟毛があります。

果実は翼果で、2つの分果からなり、秋に熟します。分果はプロペラ形でほぼ水平に開きます。

冬芽は大きめで無毛、芽鱗は8枚あり、基部は膜質の芽鱗に包まれています。仮頂芽は2個、側芽は枝に対生します。葉痕は細く、維管束痕は3個あります。

園芸品種

ハウチワカエデには多くの園芸品種があり、庭木として観賞されています。エゾメイゲツカエデの他、葉が全裂するマイクジャク、カサド、ココノエ、マツヨイ、サヨシグレなどがあります。変種も多く、オオメイゲツ、モミジバウチワカエデ、コバコハウチワなどがあり、葉の切れ込みが深い品種には、フカギレハウチワカエデや栽培種の‘小夜千鳥’、‘舞孔雀’などがあります。ハウチワカエデは葉の変異が大きく、母種とは異なる葉を持つ品種も生まれています。

利用

ハウチワカエデの材は、薪炭のほか、船舶材、建築材、彫刻材としても利用されています。

脚注

参考文献

亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年、42-43頁
佐竹義輔ほか編『日本の野生植物木本II』平凡社、1989年。
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社、2014年、109頁。
辻井達一『日本の樹木』中央公論社、1995年、232-235頁。
西田尚道監修学習研究社編『日本の樹木』学習研究社、2000年、20頁。
林将之『紅[[葉]]ハンドブック』文一総合出版、2008年。
平野隆久監修永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年、138頁。
松倉一夫『葉・花・実・樹皮で見分ける! 樹木観察ハンドブック山歩き編』JTBパブリッシング、2009年、98頁。
邑田仁、米倉浩司編『APG原色牧野植物大図鑑II』北隆館、2013年、175頁。
茂木透、石井英美ほか『樹に咲く花：離弁花2』山と渓谷社、2000年。

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