ハサン・フェリット・アルナル

ハサン・フェリット・アルナルは、1906年3月11日にイスタンブールで生まれ、1978年にアンカラで亡くなったトルコの作曲家、指揮者です。彼はトルコ共和国が建国されたばかりの時期に、西洋音楽の技法を取り入れつつ、自国の音楽文化に基づいた独自のスタイルを確立しようとした作曲家たちの世代、いわゆる「トルコ国民楽派」の代表的な人物の一人です。

アルナルは、ジェマル・レシット・レイ、ウルヴィ・ジェマル・エルキン、アフメト・アドナン・サイグン、ネジル・カズム・アクセスと共に「トルコ5人組」と呼ばれ、トルコのクラシック音楽史において非常に重要な役割を果たしました。

略歴

アルナルの音楽の旅は、12歳でカヌーンの神童として注目を集めたことから始まります。その後、イスタンブール音楽院に入学し、16歳で西洋音楽へと転向しました。彼は音楽院で対位法、フーガ、和声といった基本的な作曲技法を学びました。

さらなる研鑽のため、1927年から1932年にかけてウィーン音楽院に留学。作曲をヨーゼフ・マルクスに、指揮をオズヴァルト・カバスタに師事し、深い専門知識を身につけました。

帰国後、アルナルはトルコ国内で精力的に活動を開始します。当初はイスタンブールの劇場で指揮者を務めたり、音楽院で教鞭を執ったりしました。1937年から1946年までは音楽院で作曲法の教師として後進の指導にあたり、1946年からは1953年までイスタンブール・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者としてオーケストラを率いました。

1954年にはアンカラ国立歌劇場の音楽総監督に就任し、1960年までその職を務めました。その後も国内外で客演指揮者として活動を続け、多忙なキャリアを終えるまで音楽界に貢献しました。

作風

アルナルの作品には、トルコの豊かな民族音楽や民謡からの影響が色濃く反映されています。彼は西洋音楽の形式や技法を用いながらも、トルコ固有のリズムや旋律を取り入れることで、郷土色あふれる独自の音楽世界を構築しました。また、伝統楽器であるカヌーンを用いた作品も手がけており、伝統と現代の融合を試みました。彼の音楽は、トルコの文化的なアイデンティティと普遍的な音楽性を兼ね備えていると言えるでしょう。

主要作品

アルナルは多様なジャンルにわたる作品を残しています。

管弦楽曲・協奏曲: 『ロマンティックな序曲』（1932年）、『前奏曲と2つの舞曲』（1935年）、『組曲《トルコ風》』（1936年）、管弦楽組曲『イスタンブール』（1937年-1938年）といった管弦楽作品に加え、独奏楽器とオーケストラのための作品として『チェロ協奏曲』（1943年）や、彼自身のルーツであるカヌーンのための『カヌーンと弦楽オーケストラのための協奏曲』（1944年-1951年）があります。
劇音楽: ゲーテの『ファウスト』のための付随音楽（1944年）を作曲しています。
オペレッタ: 若い頃には独唱のためのオペレッタ『ザビットの蝶々』（1922年）も手がけています。
声楽曲: ソプラノと管弦楽のための『3つの民謡』（1948年）などがあります。
室内楽曲・ピアノ曲: 『ピアノ三重奏のための《幻想曲》』（1929年）、『ヴァイオリンとピアノのための《組曲》』（1930年）、『弦楽四重奏曲』（1930年）などの室内楽、ピアノ独奏曲には『Yalova Türküsü』（1932年）、『Sari Zeybek』（1932年）などがあります。無言歌も作曲しています。
伝統楽器のための作品: 伝統楽器アンサンブルのために『10 Saz semaisi』（1926年）、『Bayati Araban Pesrev』（1927年）、『Bayati Araban Saz Semaisi』（1927年）、『Segah Pesrev』（1927年）といった作品を残しています。
* 映画音楽・テレビ音楽: 『イスタンブールの水流』（1931年）、『Namik Kemal』（1949年）、『絨毯売りの娘』（1953年）などの映画音楽も作曲しました。

ハサン・フェリット・アルナルは、カヌーン奏者としての伝統的な背景を持ちながら、西洋音楽の技法を習得し、トルコ独自の国民楽派を形成する上で中心的な役割を果たした、トルコ音楽史における重要な人物です。

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