ハシリドコロ

ハシリドコロ（走野老）

ハシリドコロは、ナス科ハシリドコロ属に分類される多年草です。学名は Scopolia japonica といい、別名としてサワナス、オメキグサ、キチガイイモ、キチガイナスビ、オニヒルグサなどがあります。和名の由来は、誤って食べると錯乱して走り回る様子から、また、根茎がトコロ（野老）に似ていることから名付けられました。

特徴

分布と生育環境

ハシリドコロは、日本の本州、四国、九州に分布しています。主に沢沿いの水辺や山間部の日陰など、湿った場所に群生します。

形態

草丈: 30～60cm程度に成長します。
全体: 全体的に毛がなく、太い根茎を持つのが特徴です。茎葉は柔らかいです。
花: 早春に若葉が開くと同時に、暗紫紅色の釣鐘状の花を下向きに咲かせます。花の中は黄色です。花期は4～5月です。
果実: 直径約1cmの薄緑色の歪んだ球形。熟すと上部が蓋状に外れ、種子を放出します。
その他: 7月頃には地上部が枯れるため、夏から冬にかけては見られなくなる、典型的な春植物です。

注意点

早春に生える新芽がフキノトウに似ているため、誤食による食中毒の危険があります。

毒性と利用

毒性

ハシリドコロは、トロパンアルカロイドを主な毒成分とする有毒植物です。全草に毒があり、特に根茎と根に強い毒性があります。誤食すると、幻覚、錯乱、嘔吐、下痢、血便、瞳孔散大、めまい、異常興奮などの症状が現れ、重症化すると呼吸困難から死に至ることもあります。これは、同じナス科のベラドンナと同様の症状です。また、ハシリドコロに触った手で目をこすると、瞳孔が開き、眩しく感じられることがあります。

毒成分

ハシリドコロに含まれる主なトロパンアルカロイドは、l-ヒヨスチアミン、アトロピン（dl-ヒヨスチアミン）、ノルヒヨスチアミン、l-スコポラミンなどです。これらの成分は副交感神経を麻痺させるため、上記のような中毒症状を引き起こします。

薬用としての利用

日本では、江戸時代にシーボルトが薬効に気づき、以降ベラドンナの代用品として利用されるようになりました。専門家が適切な用法・用量で使用すれば有用で、特に根茎を乾燥させたものは「ロートコン」と呼ばれ、日本薬局方にも収録されています。ロートコンには消化液分泌抑制作用や鎮痛鎮痙作用があり、含まれるアトロピンは硫酸アトロピンの原料となります。また、ロートコンの成分を水やエタノールで抽出したロートエキスは、胃薬として利用されます。

間違えやすい山菜

春に山菜採りをする際には、特に注意が必要です。ハシリドコロの新芽は、フキノトウ、ハンゴンソウ、オオバギボウシなどと間違えやすいため、誤食による食中毒のリスクが高いです。山菜採りの際は、専門家の指導を受けるか、図鑑などで十分に確認することが重要です。

参考文献

金田初代、金田洋一郎（写真）『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日
永田芳男『春の野草』山と渓谷社、2006年11月10日
和田浩志・寺林進・近藤健児編集（旧版監修：三橋博）『原色牧野和漢薬草大図鑑』北隆館
木原浩『新装版山渓フィールドブックス (14) 山菜』山と渓谷社

関連項目

ベラドンナ
アトロピン
土生玄碩
高橋順太郎

外部リンク

ハシリドコロ（ナス科） - 東京都福祉保健局
ハシリドコロ - 都立薬用植物園の妖精達
はしりどころ（走野老）の毒性 - 医薬品情報21
自然毒のリスクプロファイル：高等植物：ハシリドコロ - 厚生労働省
ハシリドコロ 武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園

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