ハダメス・ジナタリ

ハダメス・ジナタリ（Radamés Gnattali, 1906年 1月27日 - 1988年 2月3日）は、ブラジル南部ポルト・アレグレ出身の音楽家、作曲家です。彼はイタリア系の家系に生まれ、生涯を通じてクラシック音楽とポピュラー音楽という、通常は隔てられがちな二つのジャンルの間で自由に活動しました。その多才な活動は、ブラジル音楽史において特筆すべき存在となっています。

幼い頃から音楽に親しみ、わずか6歳でピアノを弾き始めました。また、ヴァイオリンも習得し、若くしてその音楽的才能を示しました。15歳になるまでには、ブラジルのポピュラー音楽で重要な役割を果たすカヴァキーニョや、ギターといった楽器にも習熟しており、幅広い楽器を操る能力は、その後の多様な音楽活動の基礎となりました。専門的な音楽教育は、1924年に州立芸術学院に入学することから始まり、その後リオ・デ・ジャネイロの国立音楽学校へと進みました。

学業を終えた後、一度故郷ポルト・アレグレに戻り、ピアノ教師として生計を立てる傍ら、ヴィオラ奏者としてエンリキ・オスワルド弦楽四重奏団に参加するなど、演奏家としての活動も継続しました。作曲家としては、初期にはフランス印象派音楽からの影響が見受けられましたが、同時にブラジル独自の民族音楽に対しても深い関心を抱いていました。私的な場では、習得していたカヴァキーニョやギターを演奏し、ブラジル音楽の持つ豊かなリズムや旋律への理解を深めていました。

再びブラジルの音楽の中心地であるリオ・デ・ジャネイロへ移ったジナタリは、国立放送管弦楽団の指揮者に就任しました。この立場で、彼は数多くのラジオ放送用の音楽録音を指揮しました。また、ポピュラー音楽の世界でもアレンジャーとして高い評価を得ましたが、彼の名声がブラジル国内外に広く知られるきっかけとなったのは、クラシック作品である管弦楽のための「ブラジリアーナ第1番 (Brasiliana No.1)」でした。この作品は、1946年にBBCオーケストラによって録音され、その質の高さとブラジル音楽のエッセンスが融合したスタイルが注目を集めました。

ジナタリの作品は、ショーロやサンバ・カンソンといったブラジルのポピュラー音楽の要素と、クラシック音楽の技法が見事に融合している点が特徴です。彼の音楽には、エイトル・ヴィラ＝ロボスやピシンギーニャといったブラジル音楽の偉人たちの影響が色濃く反映されており、伝統的な要素を尊重しつつも、常に新しい音楽表現を追求しました。

ブラジル音楽史における彼の貢献は、作曲や演奏活動に留まりません。特に、1952年に当時まだ若手ピアニストとしてクラブで演奏していたアントニオ・カルロス・ジョビンの才能を見出したことは、特筆すべき功績です。ジナタリはジョビンをコンチネンタルレコードに推薦し、作曲家および編曲家としてのキャリアを歩み始めるきっかけを与えました。その後も、ジョビンの音楽活動を側面から支援し、音楽的なアドバイスを送るなど、師とも呼べる存在でした。このため、ボサノヴァという新たな音楽ジャンルが隆盛する過程においても、ジナタリは重要な役割を果たした人物と評価されています。ジョビン自身も、ジナタリへの深い敬意を込めて「我が友ハダメス (Meu Amigo Radamés)」という楽曲を作曲し、共に演奏を行っています。

近年、マルカンドレ・アムランのような著名なピアニストによって彼のピアノ作品が演奏されるなど、ジナタリの音楽に再び光が当てられる機会が増えています。しかし、残念ながら彼の多くの作品の楽譜は未出版のままであり、現在でも入手が困難な状況です。このため、彼の膨大な作品群の全貌に触れることは、音楽研究者や演奏家にとっても容易ではありません。

ハダメス・ジナタリは、単なる作曲家や演奏家ではなく、ブラジル音楽の多様なスタイルを横断し、後進の育成にも貢献した多角的な才能を持った音楽家でした。クラシックとポピュラー、伝統と革新を巧みに融合させた彼の音楽は、ブラジル音楽の豊かさと奥深さを体現しています。

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