ハプログループC2 (Y染色体)

Y染色体ハプログループC-M217（C2）の概要

Y染色体ハプログループC-M217、別名C2は、人類の父系遺伝子系統を辿る上で重要な役割を果たすY染色体ハプログループの一つです。遺伝子マーカーM217、P44、PK2によって定義され、かつてはC3と呼ばれていました。最新の研究によると、約50,865年前にハプログループC1から分岐し、現存するC-M217系統の最も近い共通祖先は、約35,383年前にユーラシア大陸北東部で誕生したと推定されています。

世界における分布

C-M217は、ユーラシア大陸、特にシベリア地域に広く分布しています。ツングース系民族、モンゴル系民族、カザフ人、ハザーラ人、コリャーク人、イテリメン人、ユカギール人、ニヴフ人などにおいて高い頻度を示すことが知られています。アメリカ大陸では、ナデネ語族話者を含む一部の先住民集団にも比較的多く見られます。

日本における分布

日本におけるC-M217の分布は地域差が顕著です。東京や沖縄などではほとんど観察されない一方、九州北部（大分県、福岡県、佐賀県、長崎県）では7.8%程度の割合で検出される地域もあります。特にアイヌ民族においては、サンプル数が少ないながらも高い頻度（12.5%～25%）が報告されており、注目されています。また、茨城県でも高い頻度（14%）が報告されていますが、これはサンプル数に依存した結果である可能性もあります。

下位系統

C-M217は、さらに多くの下位系統（サブクレード）に分類されます。主なものとしては、C2a（C-L1373）、C2b（C-F1067）、C2eなどがあり、それぞれが地域的な特徴や頻度を示します。これらの下位系統は、地理的分布や民族集団との関連性を解明する上で重要な手がかりとなります。C2aは、特に東シベリアや中央アジアの先住民族に多く見られ、中国、日本、韓国でも稀に見られます。C2a1a1a（C-P39）は北米先住民、特にナデネ語族に高い割合で存在します。C2a1a2a（C-M48）は、アルタイ諸語を話す民族に多く、古アジア諸語との関連も示唆されています。C2e1a (C-CTS2657)は、韓国、日本、中国に分布しています。

この他にも多くの下位系統が存在し、それぞれが異なる地理的分布と民族集団との関連性を示すため、さらなる研究が必要です。

言語・民族との関連

C-M217の分布は、特定の言語系統や民族集団との関連性が指摘されています。特に、アルタイ諸語（トルコ語族、モンゴル語族、ツングース語族）と古アジア諸語を話す集団、そしてナデネ語族話者において、C-M217の頻度が高い傾向が見られます。しかし、この関連性は複雑であり、単一の系統で説明できるものではなく、複数の系統の相互作用や、言語接触、人口移動などの歴史的要因を考慮する必要があります。例えば、アルタイ系民族ではC-M48やC-P39を含むC-L1373系統が主流である一方、東アジアの民族ではC-F1067系統がより多く見られます。

C-M407は、バイカル湖周辺の民族やカザフの特定集団に多く見られますが、これは東アジアに多いC-F1067系統に属しています。このことから、C-M217系統の拡散と分岐は、複雑な人口移動や言語接触の歴史を反映していると考えられます。

結論

Y染色体ハプログループC-M217は、ユーラシア大陸とアメリカ大陸の先住民集団において重要な遺伝的特徴を示す系統です。その分布と下位系統の多様性、言語・民族集団との関連性から、古代の人類の移動や交流、言語進化といった歴史的過程を解明する上で重要な情報を提供しています。しかし、その複雑な歴史を完全に解明するためには、さらなる研究が必要となります。特に、日本における地域差の解明や、各下位系統の年代測定精度の向上などが今後の課題と言えます。様々な研究グループが現在も分析を進めており、今後の研究の進展に期待されます。

もう一度検索