ハプログループO (Y染色体)

Y染色体ハプログループO：東アジア・東南アジアを代表する父系遺伝子系統

Y染色体ハプログループOは、分子人類学における人類の父系をたどる上で重要な指標となる遺伝子系統です。東アジアと東南アジアにおいて最も頻度が高く、西ユーラシア系のハプログループRと並んで、現代人に最も多く見られるY染色体ハプログループの一つと考えられています。

起源と拡散

ハプログループOは約4万年前に、ハプログループNから分岐したと推定されています。現存する主要な系統であるO1とO2の最も近い共通祖先は、約3万～3万5千年前頃に生きていたと考えられています。

O系統は、華北平原や長江流域といった東アジアの肥沃な地域を中心に多様なサブグループを生み出しました。これらの地域を起点に、東アジア、東南アジア、そしてポリネシアへと広範囲に拡散していったと考えられています。

考古学的証拠からも、その拡散の様子がうかがえます。「大渓文化」の遺跡から出土した人骨のY染色体分析では、O2a2a1a2系統（M7、旧O3系）が主要な系統であったことが確認されています。この系統は現在、中国南部から東南アジア北部の山岳地帯に居住するモン・ミエン語族（ミャオ・ヤオ語族）に多く見られます。「大渓文化」はその後「屈家嶺文化」へと継承されたと考えられています。

主要な下位系統

ハプログループOは、大きくO1とO2の2系統に分類されます。約3万年前頃には、O1a、O1b1、O1b2、O2a、O2bという5つの古い系統に分岐していたと推定されています。それぞれの系統は、以下の通り、特徴的な地理的分布と関連する民族集団を示します。

O1a: 中国東部・南部、台湾先住民、海南島のリー族、フィリピン、インドネシアの一部地域（ニアス島、ムンタワイ諸島など）に多く分布。オーストロネシア語族、タイ・カダイ語族との関連が指摘されています。
O1b1: 東南アジア、中国南部（リー族、タイ族、プイ族など）、インド東部の一部（カシ族、ムンダ系民族、ミゾ・クキ・チン族など）に多く分布。オーストロアジア語族との関連が指摘されています。
O1b2: 日本と朝鮮半島に多く分布します。
O2a: 中国北部、朝鮮半島からインド北東部、ミャンマーの山岳地帯にかけて広く分布。シナ・チベット語族、モン・ミエン語族との関連が想定されています。
O2b (旧O3)**: 中国、韓国、日本、ベトナム、ラオス、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアの一部地域、フィリピン、マリアナ諸島、カザフスタン、スリナムなど、広い範囲に散在的に分布。現代中国では男性人口の約1.15%を占め、瑶族では3.3%、漢民族では2%の割合で確認されています。長江中・下流地域が起源地ではないかと推測されています。日本においても、O2b系統が確認されています。

まとめ

Y染色体ハプログループOは、その起源から現代までの広範な拡散、多様な下位系統、そして関連する民族集団を研究することで、東アジア・東南アジアの人類の歴史と移動を解き明かす上で重要な役割を果たしています。今後の研究によって、さらに詳細な情報が明らかになることが期待されます。

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