ハリソン・バートウィッスル

ハリソン・バートウィッスル（1934年7月15日 - 2022年4月18日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけてのイギリス現代音楽界を牽引した作曲家です。

経歴

イングランド北西部ランカシャーのアクリントンに生まれたバートウィッスルは、少年時代にブラス・バンドに親しむ経験を持ちます。やがて作曲の道を志し、マンチェスター音楽大学で学びました。この地で、アレクサンダー・ゲール、ジョン・オグドン、ピーター・マックスウェル・デイヴィス、エルガー・ハワースといった同時代の音楽家たちと交流し、後に「マンチェスター楽派」と呼ばれるグループを結成します。初期のバートウィッスルは特に音楽劇の分野でその才能を発揮し、オペラ「パンチとジュディー」で注目を集めました。この作品は彼の名を世に知らしめるきっかけとなります。

彼はオペラや音楽劇だけでなく、器楽や声楽の分野でも高度な作曲技法を駆使した作品を生み出しました。特にロンドン・シンフォニエッタのために書かれた室内オーケストラ作品は、彼の繊細かつ力強い音楽性をよく示しています。

1990年代に入ると、バートウィッスルの評価は国際的なものとなり、世界各地から委嘱が舞い込むようになります。これにより、彼は現代音楽界の重鎮としての地位を不動のものとしました。1995年には権威あるエルンスト・フォン・ジーメンス音楽賞を受賞しています。また、2012年には武満徹作曲賞の審査員を務めるなど、日本とも縁がありました。日本の作曲家であるなかにしあかねは彼の弟子の一人であり、イギリス歌曲に関する深い造詣を持っています。国際的な知名度は、特に1987年にオペラ「オルフェウスの仮面」でグロマイヤー賞を受賞したことが大きな契機となりました。

しかし、初期から中期にかけての重要な作品の多くが長らく録音に恵まれず、その全貌を容易に把握することが難しい作曲家であるという側面も持ち合わせています。例えば、「パンチとジュディー」も一度廃盤になった後、再リリースされたものの、録音時期がかなり古いものでした。

作風

バートウィッスルの音楽スタイルは独特であり、特定の楽派や傾向に単純に分類することは困難です。特殊奏法を多用することは少ないものの、無調の枠組みの中で、明確な旋律、特徴的なリズム、そして反復進行を意図的に用いるのが特徴です。彼の作曲の根底には、カノンやリチェルカーレといった伝統的な対位法的な思考が常に存在しますが、同時に20世紀に発展した多様な音楽語法を自在に参照しています。この二つの要素の融合が、彼の音楽に他に類を見ない個性をもたらしています。

初期の音楽劇では、当時の前衛的な手法を取り入れた、聴き手に挑戦的な響きを用いる一方、音色自体は硬質で明るく、不思議と大衆的な印象を与える独自のスタイルを確立しました。しかし、1970年代に入り、前衛的な音楽潮流が変化するのに合わせるかのように、彼はより古典的な響きや明確な拍節感を音楽に取り入れるようになります。1978年に作曲された「カルメン・アルカディアエ・メカニカエ・ペルペトゥウム」は、このスタイルの変化を示す初期の例として挙げられます。また、2003年に決定稿が発表された「ピアノとオーケストラのためのアンティフォニーズ」では、彼自身がピアノ協奏曲という形式から距離を置こうとしたと述べていますが、複雑な変拍子と速いリズムで構成される終盤は、あたかもロマン派協奏曲のソナタ形式を現代的に再解釈したかのように響きます。

楽器の使用においても、彼は革新的な試みを行いました。例えば、A管やB♭管ではなく、意図的にC管の現代クラリネットを楽器編成に含めた最初の作曲家とされています。ただし、その後の演奏家の技術向上や楽器の改良により、現在はC管を多用する作曲家というわけではありません。

主要作品（一部）

オペラ：
パンチとジュディー (Punch and Judy, 1967)
オルフェウスの仮面 (The Mask of Orpheus, 1984) - グロマイヤー賞受賞
ガウェイン (Gawain, 1990)
管弦楽／室内楽：
時の勝利 (The Triumph of Time, 1971)
サイルベリー・エアー (Silbury Air, 1976–77)
大地の踊り (Earth Dances, 1986)
ピアノとオーケストラのためのアンティフォニーズ (Antiphonies, 1992)
パニック (Panic, 1995)

ハリソン・バートウィッスルの作品は、その複雑さとエネルギー、そして伝統と革新を融合させる独自の視点によって、今なお多くの聴衆や音楽家を魅了し続けています。

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