バアル・ハモン
バアル・ハモンは、北アフリカに栄えた古代都市カルタゴで最も重要視された神格です。その名は「群集の支配者」を意味するとされますが、「ハモン」という語の正確な起源や意味については、現代の研究者の間でも明確な合意には至っていません。この神は一般的に、豊かに実る植物と広大な空を支配する存在として崇拝されました。その姿は、しばしば豊かな髭をたくわえ、曲がった羊の角を持つ威厳のある老人として描かれます。バアル・ハモンの配偶神は、カルタゴで広く崇敬された女神タニトであったと考えられています。
バアル・ハモンへの崇拝は、カルタゴを中心としたフェニキア人の植民地で盛んに行われました。特にカルタゴにおいては、紀元前5世紀、シチリア島のヒメラの戦いでの敗北を機に、かつての宗主国テュロスとの関係が変化した後、バアル・ハモンの地位がカルタゴのパンテオン（神々の集まり）の中で至上性を確立したと見られています。多くの現代学者は、この神を古代北西セム語圏で崇められた最高神エールや、穀物の神ダゴンと関連付けて考えています。
北アフリカ一帯、特にカルタゴでは、バアル・ハモンは羊と密接に結びつけられていました。カルタゴ湾を見下ろす位置にある聖なる丘ジェベル・ブ・コルネイン（「二本角の丘」の意）では、「バアル・カルナイム」、すなわち「二本角の主」という別称でも崇拝されていました。初期の研究ではフェニキアの商業神メルカルトと同一視されることもありましたが、現在では両者は異なる神と考えられています。
古代ギリシアの著述家たちはバアル・ハモンをギリシア神話のティーターン神族の王クロノスと同一視し、古代ローマ人は彼を農耕神サートゥルヌスと結びつけました。この同一視は、第二次ポエニ戦争を経てローマとカルタゴの間で文化的交流が進む中で、ローマの宗教儀礼であるサートゥルナーリア祭にも影響を与えた可能性が指摘されています。
古典期の歴史家たちの記録には、カルタゴ人がバアル・ハモンへの捧げ物として幼児を生きたまま火にくべたという記述が見られます。ただし、これらの報告の正確性や、それがどの程度の規模で行われたのかについては議論があり、聖書に登場するモロクへの供儀と混同されている可能性も指摘されています。後にバアル・ハモンがローマ化され、「アフリカのサートゥルヌス」として崇拝された際には、むしろ豊かな多産を象徴する神として表象されることが多くなりました。
「ハモン」という名の語源に関する研究は多岐にわたります。19世紀にエルネスト・ルナンが現在のレバノンにあるウム・アル＝アワミド遺跡を発掘し、エール・ハモンに捧げられた碑文を発見したことは、バアル・ハモンが最高神エールと関連付けられる根拠の一つとなりました。エールがクロノスと同一視されることが多かったため、バアル・ハモンもまたクロノスに相当すると考えられたのです。また、「ハモン」をヘブライ語やフェニキア語で「火鉢」を意味する語に結びつけ、「火鉢の主」として太陽神と解釈する説も提唱されました。一方で、イガエル・ヤディンは彼を月の神と見なし、エドワード・リピンスキーはダゴン神であると考えました。
フランク・ムーア・クロスは、ハモンという語をウガリット語やアッカド語に見られるアマノス山（シリアとキリキアを隔てる山脈）の名称と関連付け、これがウガリットのエール神の表記に由来すると論じました。また、バアル・ハモンが「二本角の主」という月の神を示す古称を持つことは、紀元前2112年頃にウル・ナンム朝時代北シリアで崇拝されていた神との関連性を示唆しています。この神は、聖書でアブラハムとその祖先がシリアに滞在していた時代にヘブライ人の祖先によって崇拝されていた神であった可能性も指摘されています。興味深いことに、バアル・ハモンとクロノスやサートゥルヌスとの関連性は、古代メソポタミアの資料には直接的な記述がありません。古代バビロニアの資料では、バアル・ハモンは明確に最高神エールの子とされており、このエールはシュメールの主神エンリル（「天空の主」）と同一視されることがあります。エンリルの二人の息子は、月の神シン（またはナンナ・スエン）と、アスタルト（または「雲の乗り手」バアル）として知られていました。月の神の娘は金星の神イシュタルであり、ウガリットやカナンの古代資料ではバアル・アスタルト（バアル・イシュクル）の妻とされています。
バアル・ハモンの名は、聖書の「雅歌」第8章11節にも地名として言及されています。そこでは、ソロモン王が所有し、高い収益を上げていた肥沃なぶどう畑の場所を示していると解釈されています。この場所は、ヨシュア記に記されるアシェル族の町ハモンや、バアル・ガド、さらにはパレスチナ中部のベラモンなど、いくつかの候補地が挙げられています。ただし、特定の場所ではなく、ソロモン王の支配領域が豊かであったことの比喩であるという解釈を提案する学者もいます。
バアル・ハモンは、カルタゴの宗教文化の中核をなす複雑で多層的な神であり、その起源、性格、および他文化との関連については、現在もなお学術的な探求が続けられています。
バアル・ハモンへの崇拝は、カルタゴを中心としたフェニキア人の植民地で盛んに行われました。特にカルタゴにおいては、紀元前5世紀、シチリア島のヒメラの戦いでの敗北を機に、かつての宗主国テュロスとの関係が変化した後、バアル・ハモンの地位がカルタゴのパンテオン（神々の集まり）の中で至上性を確立したと見られています。多くの現代学者は、この神を古代北西セム語圏で崇められた最高神エールや、穀物の神ダゴンと関連付けて考えています。
北アフリカ一帯、特にカルタゴでは、バアル・ハモンは羊と密接に結びつけられていました。カルタゴ湾を見下ろす位置にある聖なる丘ジェベル・ブ・コルネイン（「二本角の丘」の意）では、「バアル・カルナイム」、すなわち「二本角の主」という別称でも崇拝されていました。初期の研究ではフェニキアの商業神メルカルトと同一視されることもありましたが、現在では両者は異なる神と考えられています。
古代ギリシアの著述家たちはバアル・ハモンをギリシア神話のティーターン神族の王クロノスと同一視し、古代ローマ人は彼を農耕神サートゥルヌスと結びつけました。この同一視は、第二次ポエニ戦争を経てローマとカルタゴの間で文化的交流が進む中で、ローマの宗教儀礼であるサートゥルナーリア祭にも影響を与えた可能性が指摘されています。
古典期の歴史家たちの記録には、カルタゴ人がバアル・ハモンへの捧げ物として幼児を生きたまま火にくべたという記述が見られます。ただし、これらの報告の正確性や、それがどの程度の規模で行われたのかについては議論があり、聖書に登場するモロクへの供儀と混同されている可能性も指摘されています。後にバアル・ハモンがローマ化され、「アフリカのサートゥルヌス」として崇拝された際には、むしろ豊かな多産を象徴する神として表象されることが多くなりました。
「ハモン」という名の語源に関する研究は多岐にわたります。19世紀にエルネスト・ルナンが現在のレバノンにあるウム・アル＝アワミド遺跡を発掘し、エール・ハモンに捧げられた碑文を発見したことは、バアル・ハモンが最高神エールと関連付けられる根拠の一つとなりました。エールがクロノスと同一視されることが多かったため、バアル・ハモンもまたクロノスに相当すると考えられたのです。また、「ハモン」をヘブライ語やフェニキア語で「火鉢」を意味する語に結びつけ、「火鉢の主」として太陽神と解釈する説も提唱されました。一方で、イガエル・ヤディンは彼を月の神と見なし、エドワード・リピンスキーはダゴン神であると考えました。
フランク・ムーア・クロスは、ハモンという語をウガリット語やアッカド語に見られるアマノス山（シリアとキリキアを隔てる山脈）の名称と関連付け、これがウガリットのエール神の表記に由来すると論じました。また、バアル・ハモンが「二本角の主」という月の神を示す古称を持つことは、紀元前2112年頃にウル・ナンム朝時代北シリアで崇拝されていた神との関連性を示唆しています。この神は、聖書でアブラハムとその祖先がシリアに滞在していた時代にヘブライ人の祖先によって崇拝されていた神であった可能性も指摘されています。興味深いことに、バアル・ハモンとクロノスやサートゥルヌスとの関連性は、古代メソポタミアの資料には直接的な記述がありません。古代バビロニアの資料では、バアル・ハモンは明確に最高神エールの子とされており、このエールはシュメールの主神エンリル（「天空の主」）と同一視されることがあります。エンリルの二人の息子は、月の神シン（またはナンナ・スエン）と、アスタルト（または「雲の乗り手」バアル）として知られていました。月の神の娘は金星の神イシュタルであり、ウガリットやカナンの古代資料ではバアル・アスタルト（バアル・イシュクル）の妻とされています。
バアル・ハモンの名は、聖書の「雅歌」第8章11節にも地名として言及されています。そこでは、ソロモン王が所有し、高い収益を上げていた肥沃なぶどう畑の場所を示していると解釈されています。この場所は、ヨシュア記に記されるアシェル族の町ハモンや、バアル・ガド、さらにはパレスチナ中部のベラモンなど、いくつかの候補地が挙げられています。ただし、特定の場所ではなく、ソロモン王の支配領域が豊かであったことの比喩であるという解釈を提案する学者もいます。
バアル・ハモンは、カルタゴの宗教文化の中核をなす複雑で多層的な神であり、その起源、性格、および他文化との関連については、現在もなお学術的な探求が続けられています。
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