バコン

バコン寺院：クメール建築の原点

バコン寺院は、カンボジアのアンコール地域、現在のシェムリアップ近郊に位置する、クメール王朝時代に築かれた山岳寺院です。9世紀末、インドラヴァルマン1世（在位877-889年）の時代に、ハリハラーラヤという古代の都において国家寺院として重要な役割を果たしました。

歴史的背景

アンコール王朝の創始者、ジャヤーヴァルマン2世が802年にカンボジアの主権を宣言し、紆余曲折を経てハリハラーラヤを首都と定めました。その後、彼の後継者たちがバコン寺院をアンコールにおける最初の砂岩の山岳型寺院として段階的に建設しました。881年には、インドラヴァルマン1世が寺院をシヴァ神に捧げ、その中心にリンガを奉納。このリンガはインドレシュヴァラ神と名付けられ、王自身とシヴァ神を象徴するものでした。

一時期、バコンはアンコールの国家寺院としての地位を享受しましたが、その後の増改築は、12世紀中頃から13世紀にかけても寺院が放棄されていなかったことを示しています。インドラヴァルマン1世の息子であるヤショーヴァルマン1世は、首都を現在のアンコール地域に移し、バケン寺院を中心とした新たな都、ヤショーダラプラを築きました。

構造

バコン寺院の敷地は、東西900メートル、南北700メートルに及び、2つの環濠と3つの同心円状の周壁で構成されています。外周壁はほとんど残っていませんが、外側の濠の一部が残っています。現在の道路は、第二周壁につながっており、内濠の内側には、ラテライトの周壁と4つの十字形の塔門があります。また、ナーガの欄干を模した装飾が施された土手道が設けられています。

内側の周壁は、160メートル×120メートルのラテライトの壁で囲まれており、中央にピラミッド型の寺院があります。このピラミッドの各面には、シヴァ神に捧げられた8基の煉瓦造りの祠堂が2基ずつ配置されています。祠堂の扉口や柱は砂岩で造られ、まぐさには精巧な浮彫りが施されています。また、ドヴァーラパーラ（門衛神）やデヴァター（女神）の塑像が側面を飾っています。

ピラミッドの基壇は5層からなり、最下層は65メートル×67メートルです。1936年から1943年にかけて、モーリス・グレーズによって復元されました。最上部には後世に再建された塔が一つあり、アンコール・ワット様式が見られます。また、4層目の基壇には、12の小祠堂が並んでいます。

ピラミッドの基壇は、かつて漆喰の浅浮き彫りで覆われていましたが、現在はその断片のみが残っています。アスラ（阿修羅）と思われる劇的な場面を描いた彫刻は、その質の高さを物語っています。ピラミッドの各層の角には、象の巨石像が配置され、各基壇の階段はライオンの像が守っています。

建築様式と影響

バコン寺院は、初期クメール寺院建築の典型的な山岳寺院であり、階段ピラミッドの形態を持っています。また、ジャワ島のボロブドゥール寺院との類似性が指摘されており、ボロブドゥールがバコンのモデルになった可能性も示唆されています。この類似性は、クメール王国とジャワのシャイレーンドラ朝との間に、技術や建築設計の交流があったことを示唆しています。

脚注と参考文献

バコン寺院に関するさらなる情報は、以下の書籍や資料で確認できます。

石澤良昭『アンコール・ワット』講談社〈講談社現代新書〉、1996年
石澤良昭『アンコール・王たちの物語』日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2005年
ブリュノ・ダジャンス 著、石澤良昭・中島節子 訳『アンコール・ワットの時代』連合出版、2008年
Rooney, Dawn F. (2011). Angkor: Cambodia's Wondrous Khmer Temples (6th ed.). Odissey.
Dumarçay, Jacques; Royère, Pascal; Smithies, Michael; Kähler, Hans; Arps, Ben; Spuler, Bertold; Altenmüller, Hartwig (2001). Cambodian Architecture, Eight to Thirteenth Century. Brill.
Freeman, Michael; Jacques, Claude (2006). Ancient Angkor. River Books.
Glaize, Maurice (2003) [1993, First published 1944]. Tremmel, Nils. ed (PDF). The Monuments of the Angkor Group (based on the 4th ed.). http://www.theangkorguide.com/images/download/angkor-guide.pdf 2015年2月5日閲覧。
Jessup Ibbetson, Helen (2004). Art & Architecture of Cambodia. London: Thames & Hudson.
Tarling, Nicholas, ed (2006). The Cambridge History of Southeast Asia. 4. Cambridge University Press.

関連項目

バコン寺院は、アンコール遺跡群やロリュオス遺跡群の一部であり、以下の遺跡と関連があります。

アンコール遺跡
ロリュオス遺跡群
プリア・コー
* ロレイ

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