バラード第1番 (ショパン)

バラード第1番ト短調 作品23

フレデリック・ショパンによって作曲された「バラード第1番ト短調 作品23」は、彼のバラード（譚詩曲）と呼ばれる一連の作品群の中で最初に書かれたものです。この楽曲は、ショパンのキャリア初期における代表作の一つとして位置づけられています。

概要

本作品は、ショパンがパリに滞在していた1831年から1835年にかけて作曲され、1836年に出版されました。出版にあたっては、シュトックハウゼン男爵に献呈されています。

同時代の作曲家ロベルト・シューマンは、この曲に対して深い感銘を受けたと伝えられています。彼は「ショパンの作品の中で最も気に入っている」と述べつつも、「非常に優れているが、彼の作品の中でも最も天才的で独創的というわけではない」といったやや複雑な評価も残しています。後にショパンはバラード第2番をシューマンに献呈しますが、シューマンは第1番ほどには評価しなかったと言われています。

ショパンのバラードは、彼の祖国ポーランドの国民的詩人、アダム・ミツキェヴィチの愛国的な詩に触発されたものだという説がしばしば語られます。しかし、この第1番を含むショパンのバラードにおいて、特定の詩と楽曲の内容との間に、標題音楽のように明確な関連性を見出すことは難しいとされています。

楽曲構成

楽曲の形式は、古典的なソナタ形式を基盤としながらも、かなり自由な変形が加えられています。序奏部と主部における主題の拍子は4分の6拍子ですが、終盤のコーダ部では2分の2拍子に変化します。

冒頭は、ラルゴ（Largo）のテンポで始まる7小節からなる、語りかけるようなレチタティーヴォ風の序奏です（自筆譜および初期のフランス・イギリス初版ではラルゴ、ドイツ初版ではレントとなっています）。まず低音で力強くユニゾンのC音が鳴らされ、聴く者は一瞬、ハ長調で始まるのではないかと予感させられます。続いて、装飾音を伴うC-Es-Asのアルペッジョが上昇し、今度は変イ長調の響きが印象付けられます。しかし、この音形がFis音によって唐突に区切られると、雰囲気は一変します。最後は属七の和音が分散形で荘厳に鳴り響き、ト短調の第1主題へと導かれます。この導入部は、最終的にト短調におけるナポリの和音として機能しているという巧妙な仕掛けになっています。

主部はソナタ形式に倣い、提示部ではト短調の第1主題が提示された後、対照的な変ホ長調の第2主題が、ソット・ヴォーチェ（ごく弱く）のpp（ピアニッシモ）で現れます。この第2主題は、その後様々に変奏されながら展開していきます。

楽曲が進行し、第94小節からは2回目の第1主題がイ短調で再び現れます。この部分は第102小節からのクレッシェンドを受けて盛り上がり、第106小節でff（フォルティッシモ）の頂点に達します。ここで、第2主題が今度は明るいイ長調で復帰します。右手のオクターブによるスケールがfff（フォルティッシッシモ）まで高潮した後、スケルツァンド（おどけるように軽やかに）と指示されたパッセージを経て、3回目の第1主題が登場します。この3回目の登場はソナタ形式における再現部に相当し、変ホ長調で奏されます。2回目の時と同様に短縮された形をとっており、再びクレッシェンドで盛り上がります。今回はsemple cresc.（常に大きく）、molto cresc.（非常に大きく）といった指示も加わり、さらなる高揚を見せ、そのまま第208小節から始まる54小節に及ぶコーダへと突入します。

コーダはPresto con fuoco（急速に、情熱的に）と指示され、非常に劇的なクライマックスを形成します。第242小節では、高速な半音階の上昇から一気に下降する印象的なパッセージが現れます。続く第250小節から257小節にかけて、音楽的なつなぎが置かれた後、楽曲は最高潮に達します。最後は両手によるオクターブの半音階がfffで力強く下降し、劇的に締めくくられます。

その他

本作品には、ヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイによって、ヴァイオリンとピアノのために編曲された版が存在します。

また、ショパンのバラード第1番は、そのドラマティックな性質から、様々なメディアやパフォーマンスで使用され、クラシック音楽の枠を超えて多くの人々に知られるきっかけとなっています。

映像作品:
1998年の日本のテレビドラマ「世紀末の詩」第6話で使用されました。
2002年の合作映画「戦場のピアニスト」では、主人公ヴワディスワフ・シュピルマンがドイツ軍将校に請われて演奏する曲として印象的に用いられました。
テレビアニメ「四月は君の嘘」の最終回でも、主人公が演奏するシーンで使用されています。

その他:
ジョン・ノイマイヤー振付のバレエ「椿姫」では、ショパン作品が全編にわたって使用されており、この曲は第3幕における主人公たちの最後の逢瀬の場面で用いられています。
* フィギュアスケートでは、女子シングルの浅田真央選手が2010-2011シーズンのエキシビションに使用しました。男子シングルの羽生結弦選手は、2014-2015、2015-2016、2017-2018シーズン、そして2019-2020シーズン途中からショートプログラムとして使用しました。特に、羽生選手が2015年のグランプリファイナルで世界最高得点を記録した際や、2018年の平昌オリンピックで金メダルを獲得した際にこの曲を使用したことは、日本国内において本作品がクラシック音楽ファン以外にも広く認知される大きな要因となりました。

このように、ショパンのバラード第1番は、音楽自体の完成度の高さに加え、様々な分野での使用を通じて、現在も多くの人々に愛され続けている作品です。

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