バンス・ロー

バンス・ロー：メジャーリーグから中日ドラゴンズへ、そして突然の帰国

バンス・アーロン・ロー。1956年生まれのアメリカ人元プロ野球選手は、華麗なメジャーリーグでのキャリアを経て、1990年、日本のセントラル・リーグ、中日ドラゴンズに加入しました。中日での登録名は「バンスロー」。彼の父、バーノン・ローも元メジャーリーガーで、日本プロ野球のパシフィック・リーグ、西武ライオンズでコーチを務めた経験を持つ野球一家でした。

メジャーリーグでの歩み

1978年、ピッツバーグ・パイレーツからドラフト指名を受け、プロ野球選手としてのキャリアをスタートさせます。パイレーツでは目覚ましい活躍とはなりませんでしたが、シカゴ・ホワイトソックス、モントリオール・エクスポズ、シカゴ・カブスと移籍を繰り返しながら、着実に実力をつけました。特にカブス時代には三塁手のレギュラーに定着し、ナショナルリーグの選手会長も務めるなど、チームの中心選手として活躍。1989年までの通算成績は、打率.257、71本塁打という記録を残しました。

中日ドラゴンズ入団とセンセーショナルな活躍

1989年オフ、チームの若返りを図るカブスから放出されたローに目をつけたのが中日ドラゴンズでした。球団OBのケン・モッカからの情報提供がきっかけとなり、1990年1月、中日ドラゴンズと2年契約を結び、ベニー・ディステファーノとともに新外国人選手として入団します。

背番号2を背負い、星野仙一監督や落合博満らチームメイトからの期待も大きく、シーズン開幕を迎えました。そして、その期待に応えるかのような活躍を見せます。122試合に出場し、打率.313、29本塁打、78打点という素晴らしい成績を残し、セ・リーグのベストナインにも選出されました。特に長打率はリーグ1位の.560を記録し、シーズンオフには清原和博選手とともに「スーパースラッガー賞」を受賞するなど、その名を日本中に知らしめました。

突然の退団

翌1991年シーズンもプレーが期待されていましたが、ローは同年11月19日、突如として球団に対し退団を申し入れました。その理由は、当時8歳だった長女の脳腫瘍治療に専念するため、家族との時間を優先させるためだったのです。

この突然の退団は、球団にも大きな衝撃を与えました。当初は2年契約を結んでいたため、契約不履行による違約金問題も発生しましたが、ローは家族を優先し、アメリカへ帰国しました。

中日退団後と現役引退

帰国後、1991年1月7日、オークランド・アスレチックスと1年契約を結び、メジャーリーグへ復帰しました。アスレチックスでは1年間プレーした後、現役を引退。メジャーリーグでは投手としても7試合に登板した経験も持ちます。引退後は母校のブリガムヤング大学の野球部監督を務めるなど、野球界への貢献を続けています。

家族への愛情と日本の野球への葛藤

ローの退団劇は、単なる契約問題ではなく、彼の人間性、特に家族への愛情、そして日本の野球環境への葛藤を浮き彫りにしました。中日ドラゴンズ球団職員の足木敏郎氏は、著書の中でローが敬虔なモルモン教徒であり、日本の生活や野球に嫌気が差していた可能性を示唆しています。また、ロー自身も退団後に日本の野球について「金のためだけにプレーしたという感覚は、自分の球歴で初めてだった」「自分は本当に孤独だったし、日本の野球には閉口した」と、複雑な心境を語っています。

日本のプロ野球界に残した足跡

バンス・ローは、日本のプロ野球界でわずか1年間の在籍ながら、強烈なインパクトを残しました。彼の活躍は、日本のファンの記憶に深く刻まれ、その後の外国人選手の活躍にも大きな影響を与えたことは間違いありません。そして彼の突然の退団は、プロスポーツにおける選手と球団、そして家族との複雑な関係を改めて私たちに突きつけました。彼の野球人生は、成功と挫折、そして家族への揺るぎない愛情を物語る、ドラマティックな物語でした。

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