パオ民族軍

パオ民族軍（PNA）

パオ民族軍（Pa-O National Army、略称: PNA）は、ミャンマーにおけるパオ族の主要な武装組織であり、政治組織であるパオ民族機構（Pa-O National Organisation、略称: PNO）の軍事部門としての役割を担っています。2009年からはミャンマー軍の指揮下にある民兵組織として再編され、PNOが実効支配するシャン州南部のホーポン、シーセン、ピンラウンの3郡区にまたがるパオ自治区の保護を主な任務としています。

歴史的経緯

パオ族の民族運動は、1946年から1947年にかけてタトンでパオ民族機構（PNO）が設立されたことに始まります。初期の指導者にはウー・フラペらがいました。1948年には、パオ族としての正式名称承認を求めるデモが行われるなど、民族意識の高揚が見られました。同時期には、シャン族のツァオパー（世襲の首長）統治下での社会問題を背景に、僧侶中心の道徳改革運動であるパオ連帯も組織されています。

1949年、カレン族反乱軍によるタウンジー占領を機に多くのパオ族が蜂起しましたが、同年中に政府軍によって鎮圧されました。この反乱はPNOの勢力拡大につながったものの、政府による恩赦後の指導者に対する対応はパオ族に不信感を植え付ける結果となりました。

1950年にはウー・フラペが統一パオ民族主義者機構（UPNO）を結成し、議会政治に進出する一方で、タウンジーやインレー湖周辺で武装活動を展開しました。UPNOはツァオパーの私兵と衝突を繰り返しましたが、パオ族住民は組織とツァオパー双方からの徴税に苦しみました。また、指導部内の対立や暗殺事件も発生し、組織は不安定な状況にありました。1950年代のシャン州は、国民党軍の侵入や各民族武装勢力の活動により極めて混乱した状態であり、1958年には国内融和を呼びかけたネ・ウィン政権に応じ、ウー・フラペ率いる約2,000人の反乱部隊が投降しました。1959年にはツァオパー制度が廃止され、反ツァオパー運動は一定の成果を収めました。

1962年の軍事クーデター後、多くのパオ族指導者が投獄される中、逮捕を免れたボー・サンテインが山中に退きパオ民族解放機構（PNLO）を結成し武装抵抗を継続しました。しかし、他の民族武装勢力との対立からボー・サンテインは殺害され、後を引き継いだタ・カレイは組織名をシャン州諸民族解放機構（SSNLO）に変更し、シャン族やカレンニー族も包含する形で活動しました。SSNLOは共産主義思想の影響を強め、インセイン刑務所から解放されたウー・フラペら民族主義派との間に亀裂が生じました。

1973年末には民族主義派と共産主義派の対立が決定的なものとなり、1974年にタ・カレイ率いる共産主義派はビルマ共産党（CPB）との連携を深め、シャン州諸民族人民解放機構（SSNPLO、赤パオ）と改称しました。一方、ウー・フラペとアウンカムティは民族主義派を結集し、当初はシャン州諸民族解放戦線（SSNLF）として活動を開始しました。1975年にSSNLFはパオ民族解放軍（PNLA）と合併し、名称をパオ民族機構（PNO）に戻し、その軍事部門をパオ民族軍（PNA、白パオ）としました。PNO/PNAはSSNPLOとの間で激しい戦闘を繰り返し、指導者の暗殺なども発生しました。

PNOはタイ国境近くにコンネインキャンプを設置し、密輸業者からの関税を主要な資金源としましたが、1984年にクン・サの襲撃を受けキャンプを失陥。収入源と武器供給ルートを断たれ大きな打撃を受けました。1988年の民主化運動後には学生を受け入れ軍事訓練を行いましたが、その学生たちは後にPNOと対立する勢力に加わりました。1989年のCPB崩壊を機にPNOとSSNPLOは和解しましたが、長年の確執から再統合には至らず、国境拠点を失ったPNOは軍事政権の圧力に応じ、1991年4月に停戦合意を締結しました。

停戦後と現在の活動

停戦後、軍事政権はPNAの支配地域をシャン州第6特区と認め、PNOによる自治を許容しました。しかし、停戦に反対する一部勢力はパオ人民解放機構（PPLO）を結成し抵抗を続けましたが、活動は限定的でした。SSNPLOも1994年に停戦しています。

2021年のクーデター以降、PNAはミャンマー軍と共同で国民統一政府（NUG）など抵抗勢力に対する作戦を実行していると報告されています。強制徴募や恐喝などの人権侵害も指摘されており、抵抗勢力との衝突も発生しています。特に2024年には、シーセン郡区でパオ民族解放軍（PNLA）との大規模な戦闘が勃発しました。また、ネピドー防衛のため、広範囲から民兵を動員した訓練を行っています。PNA内部では副司令官のネーウィントゥンが実質的な権力を握っているとされ、彼はパオ族ではないものの、軍事政権との経済的な繋がりが強い人物と見られています。

経済活動と権力構造

PNOは直接的な大規模事業への関与は限定的と見られていますが、ホテル経営などを行っています。PNOの資金源として重要な役割を果たしているのが、元PNA将軍であり実業家のネーウィントゥンです。彼の率いるルビー・ドラゴン社は主に宝石・ヒスイ採掘で巨万の富を築いており、建設、ホテル、農業、観光など多角的な事業を展開しています。ネーウィントゥンは政治家としても活動し、自身の事業に関連する法改正に関与するなど、利益相反の疑いも指摘されています。分析によれば、ミャンマー政権、ネーウィントゥン、PNOの間にはパトロン・クライアント関係が存在し、政権はPNOの支持を、PNOはネーウィントゥンからの資金援助を、ネーウィントゥンは政権からの利権を得るという相互依存の関係が成り立っています。PNO/PNAは、ネーウィントゥンの事業環境を保護する役割も担っているとされています。

人権に関する問題

1991年の停戦以降、PNAはミャンマー軍と共同で住民からの農地接収に関与してきたと報告されています。特にカヤー州などPNOの自治範囲外の地域でも土地の強制収奪が行われた事例があります。また、検問所などでの法外な金銭の徴収による恐喝も報告されています。さらに、パオ自治区内において、カヤン族が居住する村のカトリック教会や聖母マリア像の破壊といった信教の自由の侵害行為も発生しており、パオ民族公園建設のために住民を追放する計画があるとも伝えられています。

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