パタゴン

パタゴン：パタゴニアの巨人伝説

パタゴン（Patagón）とは、16世紀に探検家マゼランによって名付けられた、南アメリカ南端に存在するとされた伝説の巨人族です。現在のパタゴニア地方の地名は、「パタゴンの住む土地」という意味に由来します。16世紀から18世紀にかけて、パタゴニアの地理がまだよく知られていなかった時代に、ヨーロッパの探検家たちが巨人族の伝説をヨーロッパに伝えました。

伝説の巨人族

パタゴンの巨人は、通常の人間よりもはるかに大きく、身長は2倍以上、時には3.7メートルから4.6メートル、あるいはそれ以上とも伝えられました。18世紀末に否定されるまで、この巨人伝説は約250年もの間、ヨーロッパで語り継がれていました。

マゼランによる最初の言及

パタゴンに関する最初の記録は、1519年に世界一周の航海に出発したマゼランとその乗組員によるものです。マゼラン艦隊の生存者の一人、アントニオ・ピガフェッタは、彼らが出会った先住民が普通の人の2倍の背丈であったと報告しています。

ピガフェッタは次のように記述しています。

「停泊地の近くの海岸で、ある日突然、我々は踊り歌い頭に粉を振りまいていた裸の巨人を見た。提督（マゼラン）は部下の一人を彼のところに行かせ、友好を示すために同じ動作をさせた。その男は提督が待つ小島に巨人を連れてきた。巨人が提督のところに来たとき、巨人は大いに驚き、指を上にむけ、我々が空から来たのだと信じているようだった。彼は我々が腰までしか届かないほど背が高く、均整のとれた体つきをしていた」

ピガフェッタはまた、マゼランが彼らに「Patagon」という名前を与えたと述べていますが、その由来については説明していません。一説には、「Pata」が足または足跡を意味することから、「大きな足の人々の国」という意味だと解釈されています。

地図に描かれた巨人

16世紀から18世紀にかけての新世界（南北アメリカ大陸）の地図には、パタゴニアの地域が「regio gigantum（巨人国）」と記されていたり、巨人のイラストが描かれているものが多く見られました。

1579年、フランシス・ドレークの艦隊の船長、フランシス・フレッチャーは、非常に背の高いパタゴニア人に遭遇したと記録しています。1590年代には、アンソニー・ニベットがパタゴニアで3.7メートルの長さの死体を発見したと主張しました。

巨人伝説の終焉

しかし、18世紀に入ると、パタゴニアに関する報告が増え、巨人伝説は徐々に否定されていきました。1766年、ジョン・バイロンが指揮するHMSドルフィン号がパタゴニアで2.7メートルの背丈の部族を見たという噂が流れましたが、1773年の最終報告では、パタゴニア人は1.98メートルとされ、背は高いものの巨人ではないと記録されました。

バイロンは、彼らが出会ったのはパタゴニアの先住民族であるテウェルチェ族であった可能性があると指摘しました。後世の研究では、パタゴニアの巨人伝説は、初期のヨーロッパ人航海者の誇張や誤報によるものであったと考えられています。

テウェルチェ族

マゼランがパタゴンと名付けた人々は、現在のテウェルチェ族であると考えられています。彼らは南アメリカでも最も未開な部族の一つで、狩猟と採集によって生活していました。テウェルチェ族は、日本の2倍の面積を持つ広大なパタゴニアに分布する先住民族の総称です。

1938年の調査では、テウェルチェ族の男性の平均身長は183.7センチメートルであり、巨人伝説は誇張されたものでしたが、実際には背の高い人々であった可能性が高いです。

パタゴンのその後

16世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパで巨人と思われていたパタゴン、すなわちテウェルチェ族は、文字を持たず定住もしない民族であったため、その勢力は正確には分かっていません。しかし、16世紀にはネグロ川以南を支配し、人口は約1万人程度だったと推定されています。

19世紀には、ヨーロッパ人の入植が始まり、1879年のフリオ・ロカ将軍によるインディオ討伐戦によって、テウェルチェ族は次々と殺され、追い詰められました。1885年には最後のテウェルチェ族長が降伏し、テウェルチェ族は自立した民族としての存続を終えました。現在、広大なパタゴニアに住むテウェルチェ族は約200人程度とされています。

パタゴニアの巨人伝説は、探検家たちの記録と、そこに住む人々の歴史が織りなす、興味深い物語です。

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