ヒメカラマツ

ヒメカラマツ（姫唐松）

ヒメカラマツ（学名：Thalictrum alpinum var. stipitatum）は、キンポウゲ科カラマツソウ属に分類される多年草です。基本種であるチシマヒメカラマツ（Thalictrum alpinum var. alpinum）の変種とされています。高山植物として知られ、その繊細な姿が特徴です。

特徴

ヒメカラマツは、地下に短い根茎を持ち、そこから細い匍匐枝を伸ばします。茎は緑色で無毛、高さは8～20cm程度と小型です。茎は直立または斜め上に伸び、上部で分枝することはありません。花期にも根生葉が残っており、長い葉柄を持つのが特徴です。葉身は2～3回3出複葉で、頂小葉は卵形から広卵形、または円形に近く、長さと幅が3～8mm程度です。葉の先端は浅く2～3裂し、基部はくさび形または円形になります。葉の質感はやや厚く、裏面の葉脈が隆起しています。葉柄の基部には膜質の托葉があり、淡褐色をしています。茎葉は小さく、1～2個程度つくか、まったくない場合もあります。株の根元には、前年の枯れた根生葉の葉柄が残ることがあります。

花期は7～8月で、長さ3～10cm程度の総状[[花序]]に、約10個の花をつけます。花の直径は0.5～1cmで、下垂します。花柄は長さ0.5～1.5cmで斜め上に伸び、基部には披針形の苞があります。萼片は4個で、黄緑色の楕円形をしており、早落性です。花弁はありません。雄しべは多数あり、葯は鮮やかな黄色で、花糸は糸状で紫色を帯びています。雌しべは4～6個あり、花柱は伸び、柱頭は三角形になります。

果実は長さ3～5mmのやや扁平な紡錘形の痩果で、4～6個つきます。両側に縦に隆起する5脈があり、基部に長さ1.5～3mmの果柄があり、下垂します。痩果の残存花柱は長さ約1mmで斜め上に伸びます。染色体数は2n=14です。

分布と生育環境

ヒメカラマツは、日本では本州の岩手県（早池峰山）、中部地方の高山（谷川岳・戸隠連峰・北アルプス北部・八ヶ岳・南アルプス）、四国に分布しています。高山帯の風の強い礫地、砂礫地、乾いた草地などに生育します。タイプ標本の採集地は北アルプスの白馬岳です。世界的には、ヒマラヤ地域に広く分布しています。

名前の由来

和名「ヒメカラマツ」は、植物体が小型であることに由来します。基本種のThalictrum alpinumに対する和名「ヒメカラマツソウ」は、植物学者矢田部良吉が命名しました。矢田部は、「甲州八ヶ嶽ニ生ズ。高サ二三寸乃至七寸。からまつそう屬中ノ小ナルモノナリ。余之ヲひめからまつさうトセリ。」と述べています。種小名のalpinumは「高山性の」、変種名のstipitatumは「柄のある」という意味です。

種の保全状況評価

ヒメカラマツは、国（環境省）のレッドデータブック、レッドリストには選定されていません。しかし、都道府県レベルでは、群馬県と山梨県で絶滅危惧IA類(CR)、長野県で絶滅危惧II類(VU)、静岡県で要注目種（N-II分布上注目種等）に指定されています。

基本種

チシマヒメカラマツ（Thalictrum alpinum L. var. alpinum）は、ヒメカラマツの基本種です。痩果の果柄がないか、あっても短いのが特徴とされています。ただし、この違いは必ずしも明確ではないという指摘もあります。チシマヒメカラマツは、千島列島、樺太をはじめ、北半球の寒帯全域に広く分布しています。

分類

ヒメカラマツは、日本産のカラマツソウ属の中で最も小型の種です。アキカラマツ節（Sect. Thalictrum）に属し、早落性の萼片を持ち、雄しべが下垂し、花糸は糸状で、先の葯が花糸より太くやや長いという特徴があります。形態的には、チャボカラマツT. foetidum var. glabrescensに似ていますが、分布地と花期が異なります。ヒメカラマツは本州の中部地方などの高山帯に7～8月に咲き、チャボカラマツは北海道や岩手県の一部に5～6月に咲きます。また、ヒメカラマツは茎先が分枝せず総状[[花序]]を持つ一方、チャボカラマツは茎先が1～3回分枝し散房花序を持ちます。

脚注

[1] 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本II離弁花類』、1982年、平凡社
[2] 清水建美著『原色新日本高山植物図鑑(II)』、1983年、保育社
[3] 北村四郎・村田源著『原色日本植物図鑑・草本編II（改訂53刷）』、1984年、保育社
[4] 豊国秀夫編『山溪カラー名鑑 日本の高山植物』、1988年、山と溪谷社
[5] 清水建美編・解説、門田裕一改訂版監修、木原浩写真『山溪ハンディ図鑑8 高山に咲く花（増補改訂新版）』、2014年、山と溪谷社
[6] 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 2』、2016年、平凡社
[7] 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
[8] 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）
[9] 日本のレッドデータ検索システム
[10] 矢田部良吉、日本植物新名, The botanical magazine,『植物学雑誌』,Vol.6, No.60, p.96, (1892).

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