ヒメコウゾ

ヒメコウゾ（姫楮）

ヒメコウゾ（学名: Broussonetia monoica）は、クワ科コウゾ属に分類される落葉性の低木です。以前はBroussonetia kazinokiとされていましたが、近年の研究により、シーボルトが持ち帰った原資料にはヒメコウゾが含まれていないことが判明し、学名が変更されました。別名ナンゴクコウゾとも呼ばれ、山地に自生しています。

特徴

ヒメコウゾは、樹高2～5メートルに成長し、枝はややツル性ですが、茎は直立します。樹皮は灰褐色で、縦の筋が入っており、網目状に見えることもあります。一年枝は暗褐色で、無毛またはわずかに毛が残ります。

葉は互生し、0.5～1センチメートルの短い葉柄を持ち、軟毛が生えています。葉の形は歪んだ卵形から広卵形で、時にはクワの葉のように2～3つに深く裂けることもあります。葉身は長さ4～10センチメートル、幅2～5センチメートルで、基部は歪んだ円形または鋭形、先端は尾状に長く尖ります。葉の縁には鈍い鋸歯があり、表面には短い毛が生え、裏面の葉脈には粗い毛が見られます。秋には葉が鮮やかな黄色に紅葉します。

花期は4～5月で、雌雄同株です。新枝の下部の葉腋に雄花序、上部の葉腋に雌花序をつけます。雄花序は直径約1センチメートルの球状で、雌花序は直径約4ミリメートルの球状で、赤紫色の糸状の花柱を多数つけます。果実は7～8月に赤く熟し、直径約1.5センチメートルの球状の集合果となり、食用可能です。

冬芽は丸みを帯びた円錐形で、2枚の芽鱗に包まれています。冬芽と葉痕の間には托葉痕があり、枝先につく仮頂芽は小さく、枝先が枯れることが多いです。葉痕は円形または楕円形で、維管束痕は多数が輪状に並びます。

分布と生育環境

ヒメコウゾは、日本では本州の岩手県以南、四国、九州（奄美大島まで）に分布しています。東アジアでは、朝鮮半島や中国中南部に自生しています。低地や低山地の林縁に生育し、和紙の原料として栽培されたコウゾ類が人里周辺に多く見られるのに対し、ヒメコウゾは自然のままの場所に生育することが多いです。

和紙原料としての利用

和紙の原料として知られるコウゾ（学名: Broussonetia kazinoki × B. papyrifera）は、ヒメコウゾとカジノキ（学名: B. papyrifera）の雑種であり、葉がより大型である点が異なります。ヒメコウゾもかつては和紙の原料として利用されていましたが、現在ではコウゾの利用が一般的です。

参考文献

鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社、2014年
林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年
佐竹義輔ほか 編『日本の野生植物 木本Ⅰ』平凡社、1989年

関連項目

コウゾ属
カジノキ
クワ

もう一度検索