ヒメナガメ

ヒメナガメ（学名：Eurydema dominulus）は、カメムシ目カメムシ科に分類される昆虫の一種です。同じナガメ属に属するナガメ（Eurydema rugosum）と比較して体がやや小さく、和名に「ヒメ（姫）」が冠されています。以前はEurydema pulchraという学名が用いられることもありましたが、現在はシノニムとされています。

形態的特徴

成虫は鮮やかな橙色を基調に、黒色の複雑な紋様を持つのが特徴です。この紋様は、逆に黒い地色に橙色の帯状の模様として見ることもできます。近縁種のナガメも似た色彩ですが、ヒメナガメの方が全体的に模様が入り組んでいます。特に胸部の背面にある黒紋に顕著な違いが見られます。ナガメでは左右に一対、合計二つの黒紋があるのに対し、ヒメナガメでは前方に二つ、その後方に四つが横一列に並び、合計六つの黒紋が配置されています。腹部の背面に見られる紋様も、ヒメナガメの方がより複雑なパターンを示します。一方、幼虫の外見はナガメの幼虫と非常に似ており、外見からの正確な識別は難しいとされています。

生態

幼虫・成虫ともに、食草はアブラナ科の植物に限られます。様々な種類のアブラナ科植物の汁を吸って成長します。これには、セイヨウアブラナ、ダイコン、キャベツ、カブ、ノザワナ、ハクサイ、コマツナ、カラシナ、ワサビといった栽培されている野菜類のほか、タネツケバナ、ナズナ、グンバイナズナ、イヌガラシ、コンロンソウなどの野生植物も含まれます。

生活環については、特定の地域での調査例が知られています。例えば、長野県伊那市の高遠で行われた調査によれば、ヒメナガメは成虫の姿で冬を越し、暖かい季節になると活動を開始して繁殖し、一年の間に三世代を繰り返すことが観察されています。

分布

ヒメナガメは、日本の本州、四国、九州の各地域に生息しています。日本国外では、台湾、中国、東南アジアの広範囲に分布するほか、遠くインドやオーストラリアのクイーンズランド州でも確認されています。ナガメと比較すると、より温暖な気候の地域に多く見られる傾向がありますが、両種の分布域が重なる場所では、しばしば同じ畑や草地で混じり合って生息している様子が観察されます。

人間との関わり

アブラナ科の植物を食草とする性質から、ヒメナガメはナガメと共に、アブラナ科の野菜を栽培する畑において農業害虫として扱われています。ヒメナガメが植物の葉から汁を吸うことで、吸われた箇所には小さな白い斑点が生じます。もし大量のヒメナガメが寄生し、吸汁被害が広範囲に及ぶと、葉が栄養を失ってしおれ、最終的には枯れてしまうこともあります。このため、野菜栽培においては防除の対象となることがあります。

もう一度検索