ナズナ

ナズナ（薺）

ナズナ（学名：Capsella bursa-pastoris）は、アブラナ科ナズナ属の越年草で、日本各地の道端や畑、荒れ地など、どこにでも見られる身近な植物です。春の七草の一つとして知られ、古くから人々の生活に深く関わってきました。別名としてペンペングサ（ぺんぺん草）、シャミセングサ（三味線草）などがあります。

名称の由来

和名「ナズナ」の由来には諸説あります。

夏に枯れることから「夏無き菜（なつな）」が転じたとする説
撫でたくなるほど可愛らしい花であることから「撫で菜（なでな）」が転じたとする説
朝鮮古語の「ナジ」に由来するという説

などがあります。

「ペンペングサ」という名前は、実の形が三味線の撥（バチ）に似ており、その様子を擬音語で表したものです。「シャミセングサ」も同様に、実の形が三味線の撥に似ていることが由来です。英名「Shepherd's purse」は「羊飼いの財布」という意味で、学名の種小名も同じ意味を持っています。中国植物名（漢名）では、薺（せい）、薺菜（せいさい）と表記されます。

ナズナの花言[[葉]]は「すべてを君に捧げる」です。

分布と生育環境

ナズナは北半球に広く分布しており、日本では北海道から九州まで、日当たりの良い場所であればどこでも見られます。草原、野原、土手、荒れ地、道端、空き地、畑や庭の隅など、様々な場所に生育します。

形態と生態

ナズナは越年草であり、地中に白い直根を持っています。春になると茎が伸び始め、草丈は10cmから50cmほどになります。冬を越した根元の葉は、地面に張り付くように放射状に広がり、ロゼット状と呼ばれる状態になります。これは、早春の弱い日光を効率的に受け取るための適応と考えられています。

葉の形は、根元の葉は羽状に深く裂けており、ダイコンの葉に似ています。茎につく葉は小さく、切れ込みがありません。花期は春から夏にかけて（3月から7月頃）で、茎の先に小さな白い花を多数つけます。花は十字形をしており、下から上へと順に咲いていきます。花が終わると、特徴的な三角形の果実をつけます。

果実は軍配のような形で、中には種子が詰まっています。熟すと2つに割れて種子を散布します。こぼれ落ちた種子は秋に発芽し、ロゼット状で冬を越し、春に成長します。また、春に発芽することもあり、一年草としても扱われることもあります。

人との関わり

ナズナは、しばしば雑草として扱われますが、日本では古くから有用な植物として利用されてきました。特に、春の七草の一つとして、七草粥には欠かせない食材です。若苗や若葉は食用にされ、ミネラル、特に鉄分やマンガンを多く含んでおり、栄養価も高いとされています。また、薬用としても利用され、開花期の全草には様々な成分が含まれています。

食用

春の七草の一つであるナズナは、七草粥の材料としてよく知られています。特に、秋の若苗は柔らかく香りが良いとされ、お浸し、和え物、煮びたし、汁の実などにして食べます。軽く塩もみして漬物にしたり、塩辛にしてお茶漬けにしたりすることもあります。かつては冬場の貴重な野菜として重宝されていました。

薬用

開花期の全草を乾燥させたものは、生薬として用いられ、様々な薬効があるとされています。解熱、下痢、便秘、止血、生理不順、子宮出血、利尿、慢性腎炎、むくみ、目の充血や痛みなどに効果があるとされ、煎じて服用したり、患部を洗ったりします。ただし、胃腸に熱がある人には効果が薄いとも言われています。高血圧や便秘には、多めに煎じて服用すると良いとされています。

風習

江戸時代には、ナズナを糸で束ねて行灯の下に吊るし、虫除けのまじないにする風習がありました。また、子供がおもちゃとして利用することもありました。実のついた花[[茎]]を折り、実の柄を持って下に引くと、実がぶら下がった状態になります。それをくるくる回すと、実が触れ合って音が出るのを楽しむ遊びがありました。

文化

慣用句

ぺんぺん草が生える: ナズナが荒れた場所でも生育することから、荒れ果てた様子を指す言葉です。
ぺんぺん草も生えない: 荒れた場所でも育つナズナさえも生えない様子から、何も残っていない状態、一切合財が残らない状態を表す言葉です。「○○が通った後はぺんぺん草も生えない」のように使われます。

家紋

ナズナのロゼット状の葉を図案化した「八薺（やつなずな）」という家紋があります。

近縁種

ナズナによく似た近縁種には、イヌナズナやマメグンバイナズナなどがあります。

イヌナズナ：花が黄色く、果実は長楕円形をしており、食用にはなりません。
マメグンバイナズナ：花が白く、果実は倒卵形をしています。

これらの近縁種とナズナを見分けるには、花の色と果実の形に注目すると良いでしょう。ナズナは白い花を咲かせ、果実は三角形をしているのが特徴です。

脚注

大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、297頁。ISBN 4-415-01906-4。
貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、52頁。ISBN 4-09-208016-6。
金田初代、金田洋一郎（写真）『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、134頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
亀田龍吉『ルーペで発見! 雑草観察ブック』世界文化社、2019年3月15日、16-17頁。ISBN 978-4-418-19203-8。
川原勝征『食べる野草と薬草』南方新社、2015年11月10日、19頁。ISBN 978-4-86124-327-1。
近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、160頁。ISBN 978-4-09-208303-5。
主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年5月1日、48頁。ISBN 978-4-391-13425-4。
高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、80頁。ISBN 4-05-401881-5。
高橋幹夫『江戸あじわい図譜』青蛙房、1995年。ISBN 4-7905-0861-7。
田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、100頁。ISBN 4-06-195372-9。
馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂（写真）、誠文堂新光社、1996年9月27日、81頁。ISBN 4-416-49618-4。
深津正『植物和名の語源探究』八坂書房、2000年4月25日、203-206頁。ISBN 4-89694-452-6。

関連項目

七草
救荒植物

外部リンク

琵琶湖博物館外来生物図鑑 ナズナ（日本語） - 琵琶湖博物館
ナズナ（日本語） - （植物雑学事典）
ナズナ【植物図鑑・撮れたてドットコム】（日本語）
ナズナ（ナズ菜）（日本語） - （Botanical Garden）
ナズナ（薺）（日本語） - （草花写真館）
* 雑草の話 第20話・ナズナ - シンジェンタ ジャパン

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