ナガメ

ナガメは、カメムシ目に属するカメムシ科の昆虫です。学名をEurydema rugosaといいます。和名の「ナガメ」は、「菜の花につくカメムシ」という意味に由来しており、その名の通り、アブラナ科の植物によく集まる性質を示しています。

特徴

成虫の体長は6.5ミリメートルから9.5ミリメートル程度で、比較的目立つ色彩を持ちます。体色は鮮やかな橙色に黒い斑紋があるタイプと、逆に黒色に橙色の縞模様が入るタイプの二通りが見られます。近縁種であるヒメナガメと比較すると、体表面の模様はよりシンプルです。一方、幼虫の姿はヒメナガメの幼虫と非常によく似ており、外見だけで正確に区別するのは難しい場合があります。

ナガメは、幼虫も成虫も一貫してアブラナ科の植物を食草とします。この科には、私たちの食生活に馴染み深い様々な野菜が含まれます。例えば、セイヨウアブラナ、ダイコン、キャベツ、カブ、ノザワナ、ハクサイ、コマツナなどがナガメの餌となります。また、栽培された野菜だけでなく、タネツケバナ、ナズナ、グンバイナズナ、イヌガラシといった野生のアブラナ科植物も利用します。さらに、アブラナ科ではありませんが、キンポウゲ科のタガラシを食草とすることもあります。

生態

ナガメは成虫の姿で冬を越します。春になり暖かくなると活動を開始し、地域によって生態は異なりますが、長野県伊那市高遠で行われた調査によれば、年に2回発生することが確認されています。活動が見られるのは主に4月から10月にかけての期間です。

臭気の機能

多くのカメムシ類と同様に、ナガメも特有の強い臭気を放ちます。この臭いの主成分はトランス-2-ヘキセナールという物質です。この臭いは、特に幼虫にとって重要な役割を果たします。一つは天敵であるアリなどを遠ざける忌避剤としての効果です。大量の臭気を放出することで、危険を察知したことを周囲に知らせ、同時に敵を寄せ付けないようにします。興味深いのは、この臭いが仲間に対するフェロモンとしても機能する点です。危険が迫り大量の臭気が放出されると、近くにいる他の幼虫はそれを警告信号と捉え、その場から落下したり逃げ散ったりします。しかし一方で、ごく少量の臭気を感知した幼虫は、逆にそれを集合の合図として利用し、仲間が集まっている場所へ引き寄せられるという、一見相反する行動が見られます。このように、同じ臭気成分が濃度によって警告と集合という全く異なるシグナルとして使い分けられているのです。

分布と生息地

ナガメは、日本国内においては北海道から九州まで広く分布しています。国外では中国にも生息しています。生息環境としては、平地から比較的標高の高い山地にかけての草地を好みます。近縁種のヒメナガメと比べると、ナガメはやや低温な環境を好む傾向がありますが、両種が混ざり合って生息している場所も少なくありません。

人間との関わり

ナガメは、ヒメナガメと同様に、農業においては厄介な存在となることがあります。アブラナ科の野菜の葉や茎に口吻を差し込み、汁を吸うことで植物に被害を与えます。被害を受けた葉には、吸汁された箇所に小さな白い斑点が無数に現れます。ナガメの発生数が多い場合、こうした被害が広範囲に及び、葉がしおれて最終的に枯れてしまうこともあります。

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