ヒューマン・オディティーズ

ザ・ヒューマン・オディティーズ：怪奇レスラー軍団の興亡史

1998年、アメリカのプロレス団体WWF（現WWE）において、異色のレスラー集団「ザ・ヒューマン・オディティーズ」が誕生しました。映画『フリークス』を彷彿とさせる、巨体や独特の風貌を持つレスラーたちが集結したこのユニットは、当初はヒール（悪役）として活動していましたが、後にベビーフェイス（正義のヒーロー）へと転身。その人気はWWFを席巻し、多くのファンを魅了しました。

ユニットの正式名称は「ザ・パレード・オブ・ヒューマン・オディティーズ」でしたが、後に「ジ・オディティーズ」と簡略化されます。初期メンバーは、トゥルース・コミッションで活躍していたクルガン、彼のマネージャーであるザ・ジャッカル、そしてWCWからWWFに復帰したばかりのジョン・テンタが覆面レスラー「ゴルガ」として参加。さらに、バスケットボール選手から転身したジャイアント・シルバ、そして怪奇派女子レスラーのルナ・バションが加わり、異様な雰囲気を醸し出すヒール軍団として活動を開始しました。

ゴルガのマスクの下には、皮膚病に侵された顔面が隠されているという設定が与えられており、その怪しさは、当時の観客に強烈な印象を与えました。ジャイアント・シルバは、クルガンを上回る巨体ながら、デビュー間もないことから試合への出場は少なく、主にセコンドとしてクルガンやゴルガを支える役割を担っていました。また、ザ・ジャッカルは、女性ダンサーのレイチェル・ロケッツを帯同しており、ユニットに独特の華やかさを添えていました。

しかし、ユニットはその後、大きな転機を迎えます。ザ・ジャッカルの離脱を機に、オディティーズはベビーフェイスへと転向。WWFを代表するディーバ、セイブルの紹介によって、新生オディティーズが誕生しました。ヒール時代とは一転、コミカルなパフォーマンスを展開するようになり、多くのファンを獲得。クルガンはセイブルのボディーガードとして活躍し、ゴルガは人気アニメ『サウスパーク』のエリック・カートマンを彷彿とさせるキャラクターに変貌を遂げました。

このベビーフェイス転向にあたり、ヒップホップ・デュオ「インセイン・クラウン・ポッシー（ICP）」が新メンバーとして加わりました。彼らは、ユニットの入場テーマ曲「The Greatest Show」を手掛け、独特のラップミュージックとパフォーマンスで、オディティーズに新たな魅力を加えました。入場時には全員でダンスを披露するなど、エンターテイメント性の高いパフォーマンスで観客を沸かせました。

試合では、小柄なレスラー集団カイエンタイと激しい抗争を展開するなど、ミッドカード戦線で活躍。1998年8月30日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで開催されたサマースラム1998では、クルガン、ゴルガ、シルバの3人が、TAKAみちのく、ディック東郷、MEN'Sテイオー、ショー・フナキの4人とのハンディキャップマッチを制し、大きな勝利を収めました。

しかし、ICPとの契約終了後、ユニットは徐々に衰退。1999年1月24日のロイヤルランブル1999にクルガンとゴルガが出場したものの、翌2月にはルナ・バションを除くメンバー全員がWWFを解雇され、ザ・ヒューマン・オディティーズは惜しまれつつも解散しました。その後、WWF殿堂入りのジョージ・スティールが一時的に加入するなど、ユニットは短いながらも記憶に残る足跡を残しました。 オディティーズは、その異質なメンバー構成と、ヒールからベビーフェイスへの転身、そしてコミカルなパフォーマンスによって、WWFの歴史に独特の彩りを添えたと言えるでしょう。彼らの活躍は、プロレスファンの記憶に今も深く刻まれています。

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