ヒンドゥスターニー音楽

北インド古典音楽、ヒンドゥスターニー音楽の歴史

ヒンドゥスターニー音楽は、北インドで発展した古典音楽であり、その起源は13世紀から15世紀にかけて、デカン高原のヴィジャヤナガル王国に遡ります。この地域で発展した音楽は、南インドの古典音楽の源流ともなっています。

13世紀のデリー宮廷では、ペルシアや中央アジアの音楽も演奏されていましたが、グワーリオールの宮廷ではヴィジャヤナガル王国で確立したプラバンダ様式の古典音楽が演奏されていました。この地で新たにドゥルヴァ音楽が生まれ、15世紀から16世紀にかけてデリー宮廷にも取り入れられました。

16世紀には、アクバル大帝の宮廷にミヤン・ターンセーンという偉大な音楽家が現れました。彼の一族は、ドゥルヴァ歌曲やラバーブなどの楽器を演奏し、その流派は20世紀まで古典音楽の最高峰として君臨し続けました。ターンセーンの一族は、ドゥルヴァ音楽と古いインド寺院音楽を融合させ、独特な音楽スタイルを確立しました。

一方、北インドの中部や東部では、アフガニスタンの部族やスーフィーの修行僧たちが、西アジア系の音楽を演奏していました。また、都市部の花柳界や宮廷のハーレムでは、様々な民族の音楽家たちが叙情的な音楽や舞踊音楽を演奏していました。これらの音楽は、ターンセーン一族の古典音楽からは低俗なものと見なされていました。

アクバル大帝の孫の代まで宮廷は芸術を保護しましたが、その後アウラングゼーブ帝はイスラムの教えに忠実で、音楽を弾圧しました。そのため、ターンセーン一族はデリーを離れ、各地の民衆音楽家と合流しました。この時期、シタールなどの楽器が古典音楽に取り入れられるようになり、19世紀初頭にはラクナウやジャイプルの宮廷で重要な楽器として用いられるようになりました。

デリー宮廷では、ハーレムの音楽家との共演を命じられたターンセーンの子孫が、Sadarangという芸名で新しい歌曲を流行させました。これが後に古典声楽カヤールとなり、その伴奏に使われるサーランギやタブラ・バヤンも宮廷で演奏されるようになりました。

ドゥルヴァ音楽では、声楽と器楽は一体であり、音楽家は両方を演奏しました。しかし、アンチ・ドゥルパド音楽は、ハーレムや地方の古典音楽をルーツとし、声楽と器楽、舞踊が結びついていました。サロード音楽は、ドゥルパド器楽、アフガン古典音楽、スーフィー古典音楽が融合した、器楽中心の音楽でした。

19世紀末になると、シタールやサロードの流派がさらに増え、アラー・ウッディーン・カーンやハーフィズ・アリー・カーン、イムダド・カーンといった優れた音楽家が登場しました。彼らの流派は、現代の北インド古典音楽の中心的な存在となっています。

現在、ドゥルヴァ音楽は少数派となり、ラクナウやジャイプルのシタール、サロードの演奏家は少なくなっています。しかし、サーランギやバーンスリー、サントゥールといった楽器による器楽演奏が盛んに行われています。これらの楽器は、20世紀になってから古典音楽の楽器として認められるようになりました。

現代のヒンドゥスターニー音楽は、声楽と器楽の区別があいまいになり、ラーガと呼ばれる旋法に基づいた音楽が中心となっています。かつての演奏家は、ラーガや流派のスタイル、個性を時間をかけて表現していましたが、現代の演奏家は、即興演奏を重視する傾向にあります。

今日の演奏では、初めの数分でラーガが表現され、その後に流派のスタイルが示されます。しかし、昔の演奏家が作曲部分だけで20分近くを費やしていたのに対し、現代の演奏家は短い作曲部を演奏するとすぐに即興に入ることが多くなりました。

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