ヒールホールド

ヒール・ホールド（Heel Hold）

ヒール・ホールドは、プロレスや各種格闘技で使用される関節技の一種です。特に相手の膝関節に大きな負担をかけることを目的としており、その危険性から多くの競技ルールで禁止されています。英語圏では一般的にヒール・フック（Heel Hook）と呼ばれ、かつてはトー・ホールド（Toe Hold）という別名も用いられましたが、これはアンクル・ホールドの別名としても使われるため混同しやすい点があります。

技のメカニズム

この技は、相手の膝がある程度曲がっている状態で仕掛けられるのが一般的です。攻撃者は、相手のかかと部分に自身の肘の内側を深くフックさせ、両手でしっかりとクラッチします。この状態で、フックしたかかとを体全体を使ってひねることで、相手の膝関節に強力な負荷をかけます。技の名前には「ヒール（かかと）」とありますが、主に関節として極まるのは膝です。しかし、その過程で足首も同時に極まることがあります。より効果的に技を極めるためには、自身の片脚を使って相手の極める側の脚を内側から絡める、あるいは足緘（あしがらみ）のように外側から制御することが重要となります。

相手が靴を履いている場合や、技を仕掛ける側が肘部分を覆う道衣などを着用している場合は、素材の摩擦によりすべりにくくなるため、一層技を極めやすくなる傾向があります。

極めのバリエーション

ヒール・ホールドには、かかとをフックする位置とひねる方向によって大きく2種類のタイプがあります。これに左右の脚を加えることで、合計4通りの極め方が存在します。

1. 外側から内側へひねるタイプ（外ヒール、順足）
これは、相手の左足に対しては自身の右腕、右足に対しては左腕の肘の内側でかかとをフックして極める方法です。
テイクダウン後のインサイドガードの体勢や、既存のアンクル・ホールド、アキレス腱固めの状態から移行しやすく、相手の蹴り足を捕らえてそのまま仕掛けるなど、技の形に入ることは比較的容易です。
ただし、人間の股関節から足先にかけては、ある程度の内側への可動域があるため、相手が同じ方向に回転してエスケープしやすいという特徴があります。そのため、容易に極まるわけではありません。格闘家の佐山聡は、腕でひねるよりも相手の踵を真上に引き上げるように極めるのが良いと述べています。

2. 内側から外側へひねるタイプ（内ヒール、逆足）
こちらは、相手の左足に対しては自身の左腕、右足に対しては右腕の肘の内側でかかとをフックして極める方法です。
蟹挟（かにばさみ）からの連携や、パスガードの最中に意表を突いて仕掛けるなど、外ヒールに比べて技の体勢に入ることは難しいとされます。
しかし、いったん形に入ってしまえば、相手にとってエスケープすることも同様に困難となります。そのため、技量が未熟な者であっても比較的容易に極めることが可能とされています。佐山聡は、単にひねるのではなく、上体を反らしながら相手の踵を真上に引き上げるように極めるのが効果的だと推奨しています。ブラジリアン柔術のルールブックでは、トーホールドに関して「外向き」（outward）という表現で、この内側から外側への回転方向が示されることがあります。

危険性と競技ルール

ヒール・ホールドは、人間の膝関節の構造上、筋力による抵抗が極めて困難な技です。技が正確に決まると、一瞬にして膝関節の靭帯（主に内側側副靭帯や外側側副靭帯）や半月板などを破壊する可能性が非常に高いため、極めて危険な技とされています。

この危険性から、多くの格闘技や武道において禁止技として定められています。例えば、脚関節技が認められているスポーツサンボ、ブラジリアン柔術（Gi）、柔術ファイティングシステムでも禁止されています。また、アマチュア修斗のビギナー部門でも反則です。一方、コンバットサンボでは禁止されておらず、ブラジリアン柔術のノーギ（道衣なし）部門では、国際ブラジリアン柔術連盟（IBJJF）が2022年までに、国際柔術連盟（JJIF）が2023年までにルールを改正し、解禁される動きが見られます。

防御・回避方法

ヒール・ホールドを仕掛けられた際の主な防御・回避策としては、仕掛けられた方向と同じ方向に自身の体を回転させ、もう一方の足で相手の尻などを蹴ることで脚を引き抜いて脱出する方法が一般的です。また、この技は相手の膝が曲がっていなければ極めることが難しいため、技を仕掛けられそうになった瞬間に素早く脚を伸ばすことも有効な防御手段となり得ます。ただし、この防御法は、相手がアキレス腱固めやアンクル・ホールドといった他の足関節技に移行するリスクを伴います。

歴史的背景

ヒール・ホールドの起源については諸説あります。1960年代のブラジルにおいて著名な格闘家だったイワン・ゴメスの弟ホセの証言によれば、イワン・ゴメスはブラジル在住の日本人柔道家・柔術家である矢野武雄からこの技を教わったとされています。これに対し、ブラジリアン柔術家のカーウソン・グレイシーは、ヒール・ホールドはイワン・ゴメス自身が考案した技だと主張しています。

1970年代初頭、ブラジリアン柔術がスポーツとしてのルール整備を進める中で、ヒール・ホールドはその危険性の高さに加え、ブラジリアン柔術が重視するポジショニングを軽視させる傾向があるとの理由から禁止技となりました。

イワン・ゴメスは1974年12月、新日本プロレスのブラジル遠征時にアントニオ猪木へ挑戦を表明したことが契機となり来日、プロレスラーとしての活動を始めます。ゴメスは新日本プロレスのレスラーたちにヒール・ホールドを伝授しました。これにより、佐山聡の設立したシューティング（後の修斗）や、前田日明らが中心となったUWF・リングス、高田延彦らのUWFインターナショナル、藤原喜明らの藤原組、船木誠勝らのパンクラスなど、新日本プロレス出身者によって設立された団体の選手たちの間でヒール・ホールドは広く知られるようになります。ケン・シャムロックもUWF、藤原組、パンクラスを渡り歩く中でこの技を習得した一人です。

1993年11月12日に開催されたUFC 1において、ケン・シャムロックがパトリック・スミスに対しヒール・ホールドで一本勝ちを収めたことで、この技は世界の格闘技界にその存在を知らしめることとなりました。

近年では、前述のようにブラジリアン柔術のノーギ部門において、段階的にヒール・ホールドの解禁が進んでいます。

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