ヒ72船団

ヒ72船団とは

ヒ72船団は、大東亜戦争（太平洋戦争）後期の1944年9月に、シンガポール（当時の呼称は昭南）から日本の門司へ向かった護送船団です。この船団は、日本が占領していたオランダ領東インドから石油を輸送するために組織された「ヒ船団」の一つで、シンガポール発の往路には奇数番号、門司行きの復路には偶数番号が付与されていました。ヒ72船団は、その名の通り、通算72番目（復路36番目）のヒ船団でした。

編成

ヒ72船団は、甚大な被害を受けたヒ71船団の復路として編成されました。しかし、ヒ71船団から継続して参加した輸送船は、タンカー1隻を含むわずか6隻でした。これらの輸送船は、貨客船「勝鬨丸」に乗り込んだ第16運航指揮班によって統括されました。護衛部隊は、引き続き第6護衛船団司令部が指揮し、海防艦4隻と駆逐艦「敷波」が加わりました。さらに、マニラから帰還するマモ03船団の輸送船3隻と駆潜艇1隻も合流しました。

特筆すべきは、ヒ72船団に参加した輸送船のうち、貨客船「勝鬨丸」と「楽洋丸」の2隻が、捕虜を収容した「ヘルシップ」であったことです。この2隻には、合わせて約2300人のイギリス軍とオーストラリア軍の捕虜が乗船していました。

アメリカ軍の脅威

当時のアメリカ海軍は、通商破壊作戦として多数の潜水艦を派遣しており、日本のシーレーンは深刻な脅威にさらされていました。ヒ72船団の進路上には、潜水艦「グロウラー」率いる熟練したウルフパックが哨戒しており、さらにアメリカ陸軍航空隊の航空機も日本の商船を攻撃していました。

航海の経過

9月6日、ヒ72船団はシンガポールを出発し、南シナ海を北上しました。9月11日には、マモ03船団と合流し、輸送船を3列縦隊に配置し、護衛艦がその両側を固める陣形を組みました。

9月12日未明、船団は潜水艦「グロウラー」に発見され、旗艦「平戸」が魚雷攻撃を受けて沈没しました。この攻撃で、司令官の梶岡少将も戦死しました。旗艦を失った船団は混乱し、その日の明け方には、シーライオンの攻撃により貨物船「南海丸」と「楽洋丸」も撃沈されました。さらに、駆逐艦「敷波」も「グロウラー」の攻撃により沈没しました。

相次ぐ損害を受け、船団は海南島の三亜へ針路を変更しましたが、「グロウラー」のウルフパックは執拗に追撃を続けました。同日夜、「パンパニト」の攻撃により、指揮船の「勝鬨丸」とタンカー「瑞鳳丸」も沈没しました。

生き残った船は、三亜に逃げ込み、救助活動が行われました。

三亜で再編成を行った船団は、低速タンカー「新潮丸」を分離し、二つの分団に分かれて出発しました。しかし、低速の第2分団は天候悪化で遅れ、21日にアメリカ陸軍航空隊の爆撃を受けて「新潮丸」が航行不能となり、高雄へ曳航されました。

先行した第1分団も、20日にアメリカ陸軍航空隊の夜間空襲を受け、海軍運送船「浅香丸」と「護国丸」が航行不能となり、海防艦「御蔵」も損傷しました。損傷した船舶は、馬公へ曳航されました。

9月25日、基隆で再編成された船団は、27日に潜水艦「プライス」の攻撃で海防艦「第10号」を失いました。残存船は分散し、各々門司を目指しました。

甚大な損害

ヒ72船団の航海は、輸送物資のほとんどを失うという大失敗に終わりました。ボーキサイト12500トン以上、石油12000トン以上など、貴重な資源が海に沈みました。

また、捕虜輸送船2隻の沈没により、多数の捕虜が犠牲になりました。「勝鬨丸」では、日本人と合わせて487人が死亡しました。「楽洋丸」では、捕虜の正確な犠牲者数は不明です。

戦闘後、アメリカの潜水艦によって、漂流していた捕虜の救助活動が行われ、一部の捕虜が救助されました。救助された捕虜の中には、泰緬鉄道の建設に従事していた者も含まれており、泰緬鉄道における捕虜の使役の実態が連合国側に明らかになるきっかけとなりました。

まとめ

ヒ72船団の航海は、太平洋戦争における日本の海上輸送作戦の困難さを象徴する出来事です。アメリカ軍の執拗な攻撃により、多くの貴重な資源と人命が失われました。また、捕虜輸送の悲惨な実態を浮き彫りにする出来事でもありました。

編制

シンガポール・楡林間の編制

シンガポール発
輸送船
タンカー: 瑞鳳丸、新潮丸
捕虜輸送船: 勝鬨丸、楽洋丸
その他: 浅香丸、南海丸
護衛艦
海防艦: 平戸（旗艦）、倉橋、御蔵、第11号海防艦
その他: 駆逐艦敷波
マニラ発（マモ03船団）
輸送船: 香久丸、護国丸、吉備津丸
護衛艦: 第19号駆潜艇、第10号海防艦、第20号海防艦、第18号掃海艇（合同せずマニラに帰還）

楡林・門司間の編制

第1分団
輸送船: 浅香丸（旗艦）、香久丸、護国丸、吉備津丸
護衛艦:
基隆まで: 御蔵、第10号海防艦、第11号海防艦、第18号海防艦、第20号海防艦
基隆以降: 第10号海防艦、第11号海防艦、第20号海防艦
第2分団
輸送船: 新潮丸
* 護衛艦: 第19号駆潜艇、開南丸

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