ビクトル古賀

ビクトル古賀：伝説のサンビスト、その生涯と功績

ビクトル古賀（本名：古賀正一、1935年 - 2018年）は、日本の格闘界に多大な影響を与えた人物です。日本人と白系ロシア人のハーフとして生まれ、サンボを日本に広めた功績は計り知れません。彼の波瀾万丈な人生と、独自の格闘理論に迫ります。

生い立ちと帰国

1935年、ビクトル古賀は満洲国ハイラルで生を受けました。父は筑後柳河藩の流れを汲む士族、母はロシア皇帝ニコライ2世の近衛兵を務めたコサック騎兵隊のアタマンを祖父に持つ白系ロシア人という、特異な血筋を受け継いでいます。

終戦後の1946年、11歳で単身満州から父の故郷である福岡県柳川市へ帰国。その後、東京の親戚の家に預けられ、東京都立一橋高等学校から日本大学医学進学課程へと進みました。大学ではレスリング部に入部し、アマチュアレスラーとして活躍。海外遠征も経験しました。

サンボとの出会いと普及

大学卒業後、レスリングの実業団チームを創設し、国民体育大会や全日本社会人レスリング選手権大会で好成績を収めました。同時に、横須賀の渡辺道場で柔道にも本格的に取り組みます。

1965年、日本レスリング協会の創始者である八田一朗が日本サンボ連盟を結成。古賀は日本人初のサンビストとして、単身ソビエト連邦へと送り込まれました。サンボの習得と普及のため世界中を奔走し、公式戦41戦無敗、全て一本勝ちという偉業を成し遂げます。

その功績が認められ、1975年には西側諸国の人間として初めてソ連邦功労スポーツマスター、ソ連邦スポーツ英雄功労賞を受賞。「サンボの神様」「無敵の王者」として、旧ソ連邦のみならず東欧圏にまでその名が轟きました。モスクワのスポーツアカデミーには、彼のロシア名であるビクトル・ニキートヴィチ・ラーバルジンの偉業を称えるレリーフが飾られ、「史上最も美しいサンボの英雄」という賛辞が添えられています。

2018年11月3日、83歳で逝去。

格闘技術と独自の理論

古賀は、量より質を重視する独自の格闘理論を持っていました。闇雲に練習時間を増やすのではなく、頭を使って工夫することを推奨し、「僕だったら人の二倍は絶対にしない。僕は人の半分だ」と語っています。関節技の練習においては、怪我を避けるためにタップをすることを推奨し、積極的に出稽古を行い、互いに足りない部分を補い合うことの重要性を説きました。

また、相手を屈服させるような勝ち方ではなく、なぜ負けたのかを気付かせないような勝ち方を理想とし、相手に「もう一度やったら絶対負けない」と思わせることが重要だと考えていました。

ユニークなトレーニング方法も持ち合わせており、走るのが苦手なため、電車の揺れを利用したトレーニングや、駅の階段を歩きながら足払いのイメージをするなど、日常の動作を工夫してトレーニングに取り入れていました。

試合においては、技をかける前に相手のことを考えないようにし、試合会場では好みの女性を探し、その姿が見えた瞬間に技をかけるなど、独特の精神論も展開していました。

平直行との交流

シューティング合宿で出会った平直行とは、格闘技雑誌の対談で再会。古賀は大山倍達のサインが入った極真会館の第1回世界大会を特集した本と、旧ソ連の帽子を平にプレゼントしました。平は古賀との交流を大切にし、千葉から浦賀まで5時間かけて会いに行ったといいます。

著書

『サンボ入門』サンボアカデミー、1977年
『裸のロシア人 スポーツ選手の体験的ソ連社会』原書房、1980年
『秘密の自己防衛術』青春出版社、1982年
『これがサンボだ！』ベースボールマガジン社、1998年（監修）

ビクトル古賀は、サンボの普及だけでなく、独自の格闘理論で多くの格闘家に影響を与えた、まさに伝説の格闘家でした。彼の残した功績は、これからも語り継がれていくことでしょう。

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