ビニ本

ビニ本とは

ビニ本とは、1970年代末から1980年代初頭にかけてブームとなった、過激な露出を売りにした成人向け書籍のことです。当時、エロ本の一種として広く流通していましたが、現在ではほとんど使われない言葉となっています。

概要

ビニ本の名前の由来は、書籍を立ち読みから防ぐためにビニール袋で包装したことにあります。神田神保町の芳賀書店が、この包装方法を採用したことがきっかけで、広く知られるようになりました。1960年代末からアダルトショップや通販で販売されていたこの種の本は、1970年代中頃から増加し、古書店にも販路を拡大。1979年にはビニ本専門書店が登場し、一大ブームを巻き起こしました。しかし、1980年代中頃にアダルトビデオが普及すると、ブームは終息に向かい、1987年頃には制作されなくなりました。

ビニ本の流通経路は、通常の出版物とは異なり、出版取次を介さず書店が出版社と直接取引を行っていた点が特徴です。また、同時期に流行した裏本や自販機本とも流通経路が異なり、出版史上の位置づけも異なります。

1990年代以降、「有害図書」の排除気運が高まり、一般のエロ本もビニール袋に入れて販売されるようになりましたが、これらはビニ本とは異なります。ビニール包装は、あくまでも立ち読み防止と回転率向上のためのものであり、倫理的な要因ではありません。

歴史

起源

ビニ本のルーツは、1960年代末頃から流通していた「グラフ誌」と呼ばれるエロ雑誌にあります。当初は海外ポルノの流用が主流でしたが、次第に日本人女性の撮り下ろしに変わっていきました。当時からポリエチレン製の袋に入っていたため、「袋物」「ビニール本」などと呼ばれていました。

これらの本は、取次を通さずに特価本として古書店に流通していました。この時期のベストセラーとしては、『下着と少女』シリーズなどが挙げられます。

ブーム初期

ビニ本ブームの発祥の地は、神田神保町の芳賀書店とされています。芳賀書店が、エロ本コーナーの立ち読み防止のためにポリ袋をかけたところ、売れ行きが向上。1979年には、ビニ本専門の支店である「芳賀書店 神田古書センター店」をオープンし、大きな話題となりました。このブームにより、神田神保町はビニ本の聖地となりました。

ブームに伴い、多くのメーカーが設立され、多数のビニ本が出版されました。1980年には、岡まゆみの『漫熱』がベストセラーとなり、メディアでも大きく取り上げられました。最盛期には、月に120冊もの新作が出版され、発行部数は130万～140万部に達したと言われています。

ビニ本の過激化も進み、当初は墨塗りだった修正が、スケパンなどの手法に変化。露出度も高まっていきました。しかし、過激化に伴い摘発も相次ぎ、1982年には第一次ビニ本ブームは終息しました。

ブーム後期

1981年秋頃からは、無修正の「裏本」が出回り始めました。それに対抗するかのように、1983年には露出度をさらに高めた「ベール本」が登場。これは第二次ビニ本ブームを巻き起こしました。裏本が性行為を写したものが多かったのに対し、ビニ本は裸体の女性が単独でポーズを取るものが主流でした。

しかし、1980年代中頃にはアダルトビデオが普及し始め、ビニ本は衰退の一途を辿ります。

衰退

1984年頃からは、裏本を流用した「スミベタ本」が流通するようになりました。これは、裏本の版に修正印刷を施したもので、次第に修正範囲が狭まり、透けて見える部分が増えていきました。1985年には新風営法が施行され、規制が厳しくなると、ビニ本を扱う書店は次々と撤退。1987年頃には、ビニ本の制作は完全に終了しました。

その後

ビニ本衰退後、一部のメーカーは裏本やアダルトビデオの製造に転換しましたが、多くは廃業しました。1980年代後半からは大手出版社もアダルト誌を刊行するようになり、エロ本はコンビニや書店で販売されるようになりました。1980年代の日本では、「陰毛」が猥褻の基準だったため、陰毛の透けて見えるビニ本が規制されましたが、少女の陰部は猥褻ではないとされ、18歳未満の陰部を写したグラビアが一般誌にも掲載されました。しかし、1989年の連続幼女誘拐事件を機にロリコンに対するバッシングが強まり、児童ポルノ禁止法によってこの種の書籍は出版禁止となりました。

2000年代以降、インターネットの普及で無修正画像が簡単に見られるようになり、「ビニ本」という言葉は歴史的な意味しか持たなくなりました。2010年代には成人向けコンテンツのネット配信が主流となり、一般書店やコンビニでは成人向け書籍の販売を取りやめる動きも広がりました。

現在では、改正児ポ法により、18歳未満が被写体の児童ポルノを所持することも違法とされています。かつて「ビニ本の聖地」と呼ばれた神田神保町では、ビニ本を扱う古書店は加盟できない状況です。2022年には、まんだらけの社長らがわいせつ図画有償頒布目的所持の疑いで書類送検されるなど、ビニ本をめぐる問題は現在も続いています。

まぎらわしいもの

裏本

裏本は、ビニ本とは異なり、法的に「わいせつ物」として扱われ、正規の流通に乗らず、秘密裏に販売されていた違法なエロ本です。ビニ本よりも過激な露出が特徴で、性行為の描写も含まれていました。

自販機本

自販機本は、書店ではなく自動販売機で販売されていたエロ本です。ビニ本とは、流通経路も販売チャネルもメーカーも異なりました。

関連文献

南伸坊のエッセイ『さる業界の人々』には、ブーム時のビニ本業界の様子が描かれています。

関連項目

春画
成人向け雑誌
エロ本
裏本
自販機本
アダルトビデオ
裏ビデオ（裏DVD）
小林脳行
武田鉄矢・谷村新司
村西とおる
* ビニール本事件

もう一度検索