ビンクリスチン

ビンクリスチン（Vincristine）

ビンクリスチン、略してVCRは、抗がん剤の一種で、ビンカアルカロイドに分類される化合物です。この薬は、商品名「オンコビン」として知られています。ビンクリスチンの主な作用は、細胞内の微小管の重合反応を阻害することで、細胞の有糸分裂を妨げることにあります。そのため、軟部腫瘍や血液腫瘍を含む多くのがん治療において、非常に重要な役割を果たしています。

承認歴

ビンクリスチンは1963年にアメリカで初めて発売され、日本では1968年に承認されました。以降、2005年には多発性骨髄腫や神経膠腫の治療において、他の抗悪性腫瘍剤との併用療法として追加で承認を受けました。また、2013年には褐色細胞腫に対する効能も認められました。さらに世界保健機関（WHO）の必須医薬品リストにも掲載されています。

効能・効果

日本国内におけるビンクリスチンの効能としては、白血病（特に急性白血病や慢性白血病の急性転化時）、悪性リンパ腫、また小児腫瘍（神経芽腫、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫など）があります。これらに加え、多発性骨髄腫や特定の神経膠腫に対しても他の薬剤と併用することで効果を発揮します。

ビンクリスチンは、さまざまな化学療法のレジメンに組み込まれ、例えば非ホジキンリンパ腫にはCHOP療法や、ホジキンリンパ腫にはMOPP療法が用いられます。急性リンパ性白血病（ALL）や腎芽腫においてはスタンフォードVという療法との併用が行われます。この薬は、免疫抑制剤としても使用され、特発性血小板減少性紫斑病（ITP）や血栓性血小板減少性紫斑病（TTP）の治療にも利用されることがあります。

副作用

ビンクリスチンは多くの副作用を引き起こす可能性があります。一般的な副作用としては、骨髄抑制（汎血球減少や白血球減少）、粘膜障害、そして脱毛が挙げられます。特に、末梢神経障害はビンクリスチンの使用に関連して高い頻度で見られる副作用です。末梢神経障害は、四肢や体全体にわたって進行する可能性があり、疼痛や痺れが伴います。

また、極めて重大な副作用としては錯乱、昏睡、消化管出血などがあり、これらは致命的な結果を招くこともあります。特に、誤って脊柱管内に投与された場合、ほとんどの症例で死亡に至る可能性が高く注意が必要です。

作用機序

ビンクリスチンは、細胞分裂が活発な細胞に作用し、微小管の形成を阻害します。これにより、有糸分裂が中期で停止し、腫瘍細胞に対する効果を発揮しますが、同時に正常な細胞にも影響を与えるため、慎重な管理が求められます。

生合成と歴史

この化合物は、ニチニチソウという植物から発見され、古くはロイコクリスチンと呼ばれていました。1950年代に多くのアルカロイドが含まれていることが明らかとなり、さまざまな病状に対する治療が試みられましたが、本格的にがん治療薬として認知されるようになったのは、白血病の研究を通じてでした。

2012年には、ビンクリスチンのリポソーム製剤も承認されました。現在では、微小粒子に結合させた新たな製剤も開発中です。今後の研究と開発によるさらなる展開が期待されます。

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