ビンブラスチン

ビンブラスチン

ビンブラスチン（Vinblastine）は、がんの治療に用いられる薬剤、いわゆる抗悪性腫瘍剤の一つです。かつてはビンカレウコブラスチン（Vincaleukoblastine）という名称で知られており、現在ではしばしばVLBあるいはVBLという略称で呼ばれます。その硫酸塩は「エクザール」という商品名で広く知られています。

この薬剤は、細胞骨格を構成するチューブリンと呼ばれるタンパク質に結合することで、細胞が増殖する過程、特に分裂の中期段階を阻害し、がん細胞の増殖を抑え込むと考えられています。チューブリンのβサブユニット付近に結合することが示されていますが、その詳しい作用機序の全容は完全には解明されていません。

ビンブラスチンは、悪性リンパ腫、絨毛性疾患（絨毛癌や破壊胞状奇胎、胞状奇胎など）、さらには再発または難治性の胚細胞腫瘍（精巣や卵巣、性腺外に発生するもの）、ランゲルハンス細胞組織球症といった幅広い疾患の治療に用いられています。特に尿路上皮癌においては、メトトレキサート、ドキソルビシン、シスプラチンと組み合わせたM-VAC療法の一部として、標準的な治療プロトコルに組み込まれています。これらの疾患に対して、単独あるいは他の抗がん剤との併用療法として投与されます。

治療においては、さまざまな副作用が懸念されます。最も重要なものの一つに骨髄抑制があり、これにより白血球や血小板、赤血球が減少し、感染症にかかりやすくなったり、貧血や出血傾向が現れたりすることがあります。また、手足のしびれや感覚の変化といった末梢神経障害は比較的よく見られる副作用です。消化管の機能異常として、腸の動きが悪くなるイレウスや消化管出血などが報告されており、悪心・嘔吐などの消化器症状も頻繁に見られます。さらに、痙攣、錯乱、昏睡、昏蒙といった中枢神経系への影響が現れる可能性もあります。まれではありますが、アナフィラキシー様症状、心臓や脳への影響（心筋虚血、脳梗塞）、難聴、呼吸器症状（呼吸困難、気管支痙攣）、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群（SIADH）といった重篤な副作用も報告されています。その他にも、歩行困難、味覚の変化、不安、不眠、性腺機能障害（男性では無精子症、女性では無月経など）、血圧上昇、レイノー現象など、多岐にわたる症状が現れる可能性があります。これらの副作用の発現には個人差があり、治療中は患者さんの状態を注意深く観察する必要があります。

この薬剤は、ニチニチソウ（Catharanthus roseus）という植物から抽出される天然物由来の成分であり、インドールアルカロイドに分類されるアルカロイドの一種です。植物由来の成分が、がん治療薬として重要な役割を果たしている例の一つと言えます。

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